
薫風
トンネルの中にいた。
規則正しく取り付けられた照明は、オレンジ色に流れていく。
薄汚れた壁の先には「トンネル出口スピード落とせ」と看板がある。
カーブが来て、ワザとアクセルを踏み込む。
目の前が急に明るくなる。
パッと視界が開けた。
薄汚れた規則正しいオレンジの波から、真っ青な空が広がる。
高揚した気分になった自分に苦笑いをする。
今何故こんな山道を走っているのか思い出す。
今日に限ってみんなが揃っていた。
誰かが「今日はジョーの誕生日じゃないのか?」と言いだした。
誕生日など祝って欲しくもなかったから、彼女はいつも何事もなく振る舞ってくれていた。
親のいない自分には、本当にこの日が誕生日なのかすらわからない。
自分は産まれてきてよかったのかも…。
みんなは誕生日のお祝いをしようと張り切りだした。
何だかムカッとした。
「理由つけて飲みたいだけなんだろ?」
そのまま家を飛び出した。
車を止め、外に出る。
草木は青く繁り、どこまでも青空が続く。
吹く風も心地よい。
「この季節が一番好き」
彼女が言っていた。
…何を意地になっていたんだろう。
せっかく祝ってくれるのなら、ありがとうと何故言えなかったのだろう。
大きく背伸びをして、深呼吸した。
そして車に乗り込んだ。
「ただいま…」
バツが悪そうに帰宅したボクを、彼女は優しく迎えてくれた。
「ごめん…意地を張っていた」
「考え方は人それぞれで、誕生日を祝って欲しい人もいるし、嫌う人もいる…でも」
彼女は笑ってこう言った。
「あなたが生まれて来てくれた日だもの。私はこの日を大切にしたい」
思わず彼女を抱き締めた。
自分を必要としてくれている人が1人でもいれば、生きている価値はあるのかもしれない。
「おひさまの匂いがするわ」
彼女が胸の中で呟いた。
そんな季節に…ボクは産まれた。
2015.5.16