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La Saint-Valentin

ジョーは、車を車庫に入れる。
車のエンジンを切ると、ひとつ溜め息をつく。

助手席に鎮座している段ボール。

チョコが山積みになっている。

研究室のドアを開けたとたんにチョコの臭いが襲ってきた。

コヤナギ博士の研究所に次々やって来る女子達にに対応しきれず、段ボールを研究室の入り口に設置したらしい…。


段ボールは助手席だけでなく、後部座席にも2つ。


研究所からここまで、車中は甘い臭いで限界近かった。


ある研究員が言っていたっけ
「日本のバレンタインは製菓会社の陰謀だ」…と。

バレンタインにチョコを送るのはアジアでも限られた地域だけだし、我が家には日本のバレンタインは無縁だ。
ただ、こうやって毎年段ボールを抱えて帰ってくるから、チョコレートを大量に食べることが出来る期間だと思っているようだ。


誰からもらったのかすらわからず、消化試合さながらチョコを食べ続ける…。

もう、こんな風習やめようよ…。


とりあえず助手席の段ボールを担ぎ、玄関に向かう。


ドアを開けると…。

フランソワーズが薔薇の花束を抱えていた。

「あら、お帰りなさい」

「…ただいま」

「「それは何?」」
2人同時だった。

「研究室に行ったら段ボールにチョコが山積みになってた。あと2箱あるんだ…」

「まぁ!!凄いのね、毎年増えてない?」

「車の中がチョコ臭い、その花束どうしたの?」


フランソワーズはニッコリ笑って「フィリップさんから戴いたの」


ジョーは花束を覗き込む。
小さなカードが挟まっていた。
フランソワーズはまだ気づいていない。

ジョーは気づかれないようそっとカードを抜く。

カードにはフランス語でメッセージが書かれていた。

Mon amour pour toi s'accro t de jour en jour. 

あなたへの想いは、日に日に募るばかりです。 


ジョーはそのカードをジーンズのポケットに突っ込んだ。



「薔薇、そのままにしておいて大丈夫?」

「…そうね、花瓶に生けてあげないと」

心なしかウキウキしているようなフランソワーズの様子に、花束を貰えることは嬉しいんだろうな…と思う。


それはいいとして…。
下に置いた段ボールを持ち上げる。


リビングの隅に置いておけば、ジェットでも来ればあっという間になくなるだろう。


日本も…花とかカードとかを送り合うバレンタインデーならいいのに…。
ふとさっき咄嗟にジーンズのポケットに突っ込んだフィリップがフランソワーズに宛てたカードを開く。


…こんな言葉…書けやしない…。


溜め息と共に自室のドアを開けた。
テーブルの上にカードが置いてある。

開いてみると…。



j' aime tes qualit s et j'aime tes d fauts. Joyeuse Saint Valentin ! 

あなたの長所も短所も好き。 ハッピーバレンタイン!



ジョーはふっと笑う。
こういうものを貰えるのも嬉しいものだな…と。


甘い言葉など浮かばないけれど、いつもありがとうみたいなカードでもいいか…なんて考えた。

日本式に来月に返そう。
そこだけ日本式かよ。と自分の都合のよさに吹き出した。


~おしまい~

2016.2.14

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