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after computopia

1


未来都市の件から半年がたった。

街の復旧も、コンピューターの「不都合」も回復したので、是非遊びに来てほしいとエッカーマン博士からメールが入る。

ジョーは乗り気ではなかった。
カールエッカーマンの存在を「不都合の回復」で、本当に消すことが出来たのか?
また危険な目に会うのではないか、それよりも悪いことが起きる予感が強かった。

乗り気でないのはジョーだけで、後のメンバーは行く気満々だった。
あれだけ未来都市を敵対視していたアルベルトでさえ、いいんじゃないか?と言い出す始末。

多数決を取っても9対1で、出発は決定だった。


「どうして行きたくないの?」
フランソワーズはジョーに問う。
「じゃ聞くけど…どうして行きたいの?」
フランソワーズは少し考える。
「エッカーマン博士がお元気か心配だから…」
またキミはそれか…。

「ボクは思い出したくもないよ」

キミが他のオトコと…なんてさ。

「焼きもち?」フランソワーズが嬉しそうに聞いてくる。

「まさか!!」

「素直じゃないんだから…」


…何だろう…嫌な予感しかしない。
みんな笑い飛ばすけれど。
悪い予感はハズレた事がないんだよ。



翌朝、早速一行は未来都市に向かう。
最後まで気乗りしないジョーを無理矢理ドルフィン号に乗せる。

ジョーはすこぶる機嫌が悪かった。

何か起きたってボクは責任取らないからね。


エッカーマン博士は、到着した一行を丁寧にもてなした。

復旧後の「市民登録」は、フランソワーズの番になっても何も変化なく、一同「ほらね」とジョーを見る。

ジョーは未来都市に入ってから尚感じる悪い予感に無口になっていた。

単独行動はしない事。それだけはジョーの意見に皆従った。

それぞれの施設の視察に別れていく。


ジョーとフランソワーズは2人でエッカーマン博士の自宅に招待された。

「君達には本当に迷惑をかけてすまなかった。お詫びに夕食を用意させて欲しい。」

「まぁ、お気遣いなく、私は何も気にしていませんわ。博士もお元気そうで何よりですわ。」
フランソワーズは一人ペラペラ喋っている。
ジョーはムスッとしたまま喋らない。

エッカーマン博士がジョーの様子に気づく。

「どうしましたかね?」

「あ、彼は…ジョーは疲れているんです。お気にされずに」
フランソワーズが即フォローする。


博士の家に到着すると、客間に通された。
数々のトロフィーが並んでいる。
息子のカールが取ったものらしい。

こんなものばかり取ってそりゃあ頭は良かったのかもしれないが、人を愛する事まで教わらなかったんだよな…。

ジョーはトロフィーを眺めながらぼんやり考えた。

トロフィーの中に白衣を着て笑っているカールの姿があった。

年代も自分達とそう変わらないだろう。
恋らしい恋もできず亡くなってしまった事には可哀想だと思うが、フランソワーズや自分に対してやった事は許せるものではなかった。

「ジョー、何を考えているの?」
怒っている様子でないことに気づいたフランソワーズが横に並ぶ。

「色々。」

「いい加減機嫌を直してくれないかしら…」
背伸びをして、ジョーの頬を手で包む。

カールの写真の前でキスをする。

見られているような、もう邪魔するなよと牽制するような…。


フランソワーズはあの時こう言った。
恋愛はプラスマイナスじゃない、お互いの心の問題だ…と。

こればかりはどんな優秀な科学者でも解けない問題だよな。
ジョーはふっと笑う。


夕食はとても美味しく、未来都市の復旧に携わったエッカーマン博士の助手たちも交え、和やかな雰囲気だった。

「もう遅くなったから、今夜は泊まって行きなさい。」

助手達と共にジョー達も宿泊することになった。

「カールエッカーマンの家」というだけで、敵の胃袋に入ったような不安は拭えないが、エッカーマン博士の暖かいもてなしに、つい気を許してしまう。

フランソワーズを守らなければという気持ちが先立ち、フランソワーズと一緒の部屋でと、普段なら言わないような事を即答してしまった。

人前では2人の関係をボヤかすのに…。
カールの影に嫉妬しているジョーの意外さに戸惑うフランソワーズ。

通された寝室はツインルーム。
フランソワーズはベッドに潜り込むと、すぐに眠ってしまった。
しばらくフランソワーズの寝顔を眺めながら、何も起こらないのでは?と思い始める。
自分一人が警戒しているだけなのでは?
カールエッカーマンは本当に消えたのかもしれない…。
考えていても仕方ない。
ジョーはベッドに入り目を閉じた。



真夜中の物音で目覚めたジョー。

廊下の方から聞こえるようだ。
ベッドから降り、フランソワーズが熟睡しているのを確認すると、そっとドアを開け、廊下を見渡す。

…気のせいか…。

部屋に戻ろうとした瞬間、首筋に衝撃が走った。

しまった!!

段々意識が遠退いていく…。

狙われていたのはボクだったんだ…。
嫌な予感が的中した。


2




翌朝。

目を覚ましたフランソワーズの隣でジョーが身支度をしていた。

「おはよう、フランソワーズ。」
フランソワーズが目を覚ました事に気づいたジョーは、身を屈めてフランソワーズにキスをする。

いつもと同じ朝の風景…。

でも…。

少し違和感を感じたが、目の前にいるのはジョーに違いない。

「今日は未来都市を案内してもらおう。エッカーマン博士の助手が案内してくれるって」

昨日はあれだけ不機嫌だったのに…。
もうカールの「影」を感じなくなったのかしら?

ジョーが急かすので、急いで身支度を済ませる。





カツーンカツーン…。

響く靴音に目が覚めた。
「…ん…」
頭が痛い。
確か…夜中に…。
大変だ!!フランソワーズが危ない!!

「ここは…何処だ…?」
身体が動かない。
手錠すらないのに、何かに拘束されているような…。

カチャ。
ドアが開く。

入ってきた人間に愕然とする。

「お前は…誰だ?」

「お前こそ…誰だ?」

目の前にいたのは…自分にそっくりな…ジョーソノモノだった。

背筋がゾッとする。
爆発したフランソワーズのクローンロボットを思い出す。

「お前は…ボクのクローンロボットか…?」

「ただのクローンではない、サイボーグとしての能力もそっくり写させてもらった」
目の前の「自分」が消える。

ジョーは絶望的な気持ちになった。

「お前にはここで死んでもらう、お前の代わりに俺がフランソワーズと共に生きていく。」

「お前は…カールエッカーマンなのか?スフィンクスの感情は消去されたのではなかったのか?」

「スフィンクスは俺がプログラミングしたのだ、そうそう消えるわけにもいかない」

「クローンロボットは誰が…」

「親父や研究員に協力してもらったよ」

「エッカーマン博士が?」

「親父だけじゃない、この未来都市全てが俺の思うがままだ!!」

ジョーは舌を鳴らす。

そう言うことか…。
排除どころかスフィンクスが…いや、カールエッカーマンが未来都市を占拠したんだ。
父親まで操っていたのか…。


何か起きたって責任取らないからね…。

取れないよ…これじゃあ。

自分の命よりも、フランソワーズが自分の偽物と暮らしていく事を考えると、ゾッとした。

背中に嫌な汗が流れる感じがする。
でも相変わらず身体が動かない。



いつもより積極的なジョーに戸惑いながらも、ここに来てからそんな様子だったと、極力気にしないようにしていた。
未来都市の住民達も快くもてなしてくれ、案内も無事に終わる。

仲間たちと合流しても、ジョーはフランソワーズから片時も離れない。
…おかしい…。
仲間もジョーの異変に気づき始めていた。



身体が動かないのは、痺れているからだと気づく。
首筋に衝撃が走ったのが原因だ…。
何だろう…。
多分スタンガン。
サイボーグ用に長く効くように作り直したのか…。
それだけの頭脳、こんなクダラナイ事に使うなよ…。
身動きが取れないジョーは、横になりながら科学オタクに呆れていた。
それが全てフランソワーズをモノにしたいが為の努力なのだから、その点では自分は負けているな…。と反省する。

彼女の為に何をしてあげてたっけ…。

考える事だけは麻痺していないから、時間はたっぷりあるのだが、俗っぽい考えしか浮かばない。

ボクは科学者じゃないしな…。
身体の中は科学の塊なのに、脳は人間臭い事しか考えられないなんて…。

…とにかくここから出ないと…。
ふと頭に浮かんだのは、生意気な超能力ベビー。

…あれから何日たった?
イワンが寝た日、フランソワーズの手が開いたからと、ドライブに行ったっけ…
あれから…確か…
よし、16日目だ!!


脳波通信の回線などとうに探られているだろうから、イワンには心で呼びかける。


フランソワーズに抱かれたイワンが身動ぎをした。
「あら、イワン、お目覚めかしら?」
ふっとジョーがイワンをフランソワーズから取り上げる。
「どうしたの…ジョー?」


「イワンを連れてちょっと散歩に行ってくる。」
いつもならそんな事しないのに…。
あれだけフランソワーズから離れなかったのに、イワンが目覚めそうになったら、あっさりその場を離れるなんて…。


〝ジョー〟
…あ。
イワンからテレパシーが送られてきた。
「イワン!起きたか?助けて欲しい」
〝ぼくは又眠らされるようだ〟
「誰に?」
〝君に〟
「?!」
〝君にそっくりな男が睡眠薬の入った注射器を、僕に注射した。君にかかっているスタンガンの有効時間はあと30分だ。おそらく偽物はその時間に再び君の元にやってくる。その時が勝負だ〟

それきりイワンからの連絡はなかった。
眠らされたな…。
誰がおかしいと気づいてくれ!!


30分後、きっとカールはとどめを刺しに来るだろう。
痺れが解ける一瞬が勝負となりそうだ。
自分のクローンと対峙する事になる…。
力も互角だ…。
どうする…?




3



「また眠ってしまったようだよ」
眠っているイワンをフランソワーズに手渡す。

「ちょっと出掛けてくる」

フランソワーズに軽くキスをし、その場を離れるジョー。

立ち去った後を、ジェット、アルベルト、張々湖、フランソワーズで追いかける。


「あんな009初めて見たな」
ジェットが笑いを堪えながら言う。
「普段は『僕たちは別に』なんて澄ましているのにな」
アルベルトもニヤリとしている。
「フランソワーズもまんざらじゃないんじゃないか?」
ジェットが言えば
「聞こえるアルよ!!」と張々湖が制す。


フランソワーズには積極的ななジョーの変貌に心当たりがあった。
あれはジョーじゃない。ジョーソックリなクローンロボット。
ジョーはきっとどこかに捕らえられているんだわ。

でもクローンロボットは性格までソックリになるはずだけど…。



スフィンクスの中央制御室には、ピュンマとグレートとジェロニモが向かった。

グレートが研究員に変装し、中に浸入、ロックを解除すると、ジェロニモが大暴れし、ピュンマはコンピューターのハッキングを始める。



カツーンカツーン…。
…来たな!!
イワンが言った30分。少し前に来るだろうと読んでいた。

ドアが開く。
相変わらず自分だ。
気味が悪い。

「さて、そろそろお前には死んでもらおう」

「何故捕まえた時に殺さない?」

「それじゃあ面白くないだろ?お前には絶望してから死んでもらわなければならないからな」


吐き気がする。
目の前の自分が嘲笑ってこっちを見ている。


「死ね!!」

銃口を向けられた瞬間、スイッチが入り、加速状態になった。

解けたぞ!!
でも喜ぶのはまだ早い、相手は自分のクローンだ。
力は…互角だ。


相手も加速する。
銃を持っているだけ向こうが有利だ。

右足と右腕に銃弾を受け、再び動けなくなった。

もうだめか…。そう思った瞬間。

「ジョー!!」フランソワーズが走ってきた。
「撃たれたの?大丈夫?」
「これくらい平気だ、それよりアイツを何とかしないと!!」

「フランソワーズ!!」
ジョーのクローンは、フランソワーズの姿を見つけると、活字に出来ない程の愛の言葉を叫び出す。


「やめてくれ!!」ジョーが耳を塞ぐ
「ボクの顔でそんな言葉を言うな!!恥ずかしすぎるだろ!!」

戦っていたメンバーが一斉に吹き出す。

「そうだな、ジョーはこうでなきゃ」ジェットが笑う。


あぁもう、誰かボクを失神させてくれ…。

ジョーが悶絶寸前のまさにその時。

ヒュン!!という音と同時に、クローンジョーが静かになる。


「お、ピュンマ、やったな」
どうやらプログラミングのシステムダウンに成功したらしい。

「ジョー、悪いな」
と言いながら、アルベルトがクローンジョーにミサイルを放つ。

「きゃっ!!」フランソワーズが叫ぶ。
ジョーは使える左手でフランソワーズを抱き締めると「大丈夫、ここにいるから」と耳元で呟く。
そしてそのまま意識を手放した…。


気がつくと、ドルフィン号のメディカルルームにいた。
手足を撃ち抜かれ、出血が酷く、気を失ったらしい。
失うならもっと早く…。ジョーは思い出し赤面する。

「あら、気がついた?」

フランソワーズがベッドサイドに腰を下ろす。


「酷い目にあったな…」
やっぱり悪い予感がしたらやめておけばよかった。
でも…?
逃げていてもカールエッカーマンはボク達の元に現れただろう。

「…ごめんなさい。気乗りしなかったのに…こんな目にあっちゃって」

フランソワーズがジョーの髪を優しく撫でる。
まだ麻酔から覚めたばかりのジョーのぼんやりした両目が見つめている。

「どの道カールエッカーマンとの戦いは避けられなかったよ」

「でも…」

「でも?」

「積極的で情熱的だったあなたもなかなかよかったわよ」
フランソワーズがにっこり笑う。

「な!!」
思わず起き上がりそうになるが、まだ傷が治ってなく、顔をしかめる。

「まだ寝てなきゃ」
フランソワーズが優しく寝かす。

「あれはボクであってボクじゃないんだ!!中身はカールエッカーマンなんだから!!」

「でもそれだけじゃないみたいよ」

「は?」

「クローンロボットは性格までソックリになるのよ、私の時もそうだったから。カールの心も入ってはいたけれど、土台はあなたの性格なのよ。」


あああああ…。
心の中で頭を抱える。

「あなたはいつも人前では私に触ろうともしないけれど、本心は活字に出来ない程の愛の言葉を囁きたいのよ」


「マジかよ…」

自分に隠された本能を向い合わせで見てしまい、混乱するジョー。

「もう少し休んだ方がいいわ。目覚める頃、日本に到着しているから。」

フランソワーズがメディカルルームを後にしようと後ろを向いた。

「フランソワーズ」

「え?」
ジョーに呼ばれ振り向く。


「ボクにはキミしかいない…愛している…。」

…。
きょとんとしているフランソワーズ。

「あなた…誰?」

2015.5.2~5.4

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