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battle

1


イワンのガセネタで、僕らは山奥にいた。

事件性は何もなく、戻ろうと思っていたら、大雨で国道が通行止めになった。

1人なら車中で野宿出来るのだが、フランソワーズが一緒だからそういう訳にもいかない。

ようやく見つけたビジネスホテルも、通行止めで足止めを食らったサラリーマンなどで満室だった。

山の麓にある、とりあえず通行止めになっていない温泉旅館にようやく一室空きを見つけた。

「僕は車で泊まるから」と言ったのだが、まだ日本滞在が浅かったフランソワーズは不安そうにジョーを見た。

「一緒に…泊まってくれない?」

…な、なんですと⁈

フランソワーズと同じ部屋で一晩一緒に過ごすぅ…。

ち…ちょっと待て、それがどういう意味なのか彼女はわかっているのか⁈

「一緒にって」

「日本の旅館ってよくわからなくて…」

はああああ

もう頭の中では、浴衣姿のフランソワーズのうなじがチラついている。

見たい…いや、そうじゃない。

ジョーが悶々としているうちに、フランソワーズは旅館の仲居さんと話をしている。

「どちらの国の方ですか?」
「フランスです」
「お綺麗な方でご主人幸せですね」

「ごっ‼︎」
「あのぉ、そういうのでは…」

咳込んでるジョーに被せるようにフランソワーズがフォローする。

「あら、ごめんなさい、あんまりお似合いだからてっきり夫婦かと」

仲居さんが部屋を案内する。

「では、ごゆっくり」
仲居さんが部屋を出ると、ジョーは盛大にため息をつく。

フランソワーズは始めての旅館に興味津々で、ふすまを開けてみたり、急須の蓋を開けてみたりしている。

カーテンを少し開け外を見る。
滝のような雨が降っている。

「明日には道路通れるといいんだけど」
このまま帰れなければ、理性を保てる自信がない。

振り返ると、始めての旅館にはしゃいでいるフランソワーズの姿。

あぁ、もう…。

ジョーは頭を抱えた。

 

 

 

 

2


夕ご飯を食べ終え、せっかくなので温泉に行く事にした。

お風呂の入り方、浴衣の着方をとりあえず教え、男湯と女湯に別れる。

露天風呂には屋根があり、雨が降っていても入る事が出来た。

湯船に浸かり空を見る。
星もなくただ雨が落ちてくる。

頭の中のイケない事を一掃しようと無心に雨を眺める。

〝ジョー、聞こえる?〟

「うわっ‼︎」

いきなり脳内にフランソワーズの声がして、飛び上がりそうになる。

頭から出したかったイロイロが一瞬で戻ってきた。
おまけに露天風呂に入るフランソワーズの想像図までご丁寧に再現してくれている。

だめだだめだ!

〝ジョー、どうしたの?〟

〝そっちこそどうしたの?〟

〝一人だから寂しくなっちゃって〟

ひっ…一人で露天風呂…。

〝もうそろそろ上がる?〟
一人で露天風呂を必死に脳から追い出す。

〝とても気持ちいいわ〟

…気持ちいい…。

ゴボボボボ

〝ジョー、どうしたの?〟

危うく沈んでしまう所だった…
〝何にもない、ロビーで待ち合わせよう〝

ジョーはもう一度露天風呂に沈んた。

3

旅館のロビーは、風呂上りや、道路状況を聞きに来ている宿泊客で賑わっていた。

フランソワーズはロビー脇のソファーに座っていた。

通り過ぎる男性客が二度見する。

想像以上の完成度だ。
浴衣と上げた髪の色っぽさと後れ毛とうなじの絶妙なバランス。

そんな彼女と同じ部屋に泊まれる優越感。
そして同じ部屋に泊まれても何も出来ない絶望感。


部屋のふすまを開けると、どーんと2組の布団がぴったりとくっついて敷いてある。


で す よ ね ぇ ~


「凄いわ!お客さんがいないうちに布団を敷いて置くなんて!」
フランソワーズは感動している。

ジョーはズルズルと布団を引きずりちょっと間を開けた。

「あら、どうしたの?」
ジョーの行動を理解していないフランソワーズ。


「いや、流石にこれはダメでしょう?」


フランソワーズは天使のような澄んだ目をして
「ジョーを信じているから」
と言った。

シンジテイルカラ…

不慮の事故も、成り行きも、アクシデントも受け入れませんよ。
ジョーにはそう聞こえた。

あぁ…神様、これは何の試練なのですか?

熟睡を期待して、廊下の自販機で買ったビールを一気に飲み干して布団に入る。

「おやすみなさい」

「おやすみ」

フランソワーズが電気を消した。

ジョーはフランソワーズが見えないように反対を向いて布団を被る。


どうか朝まで目が覚めませんように…と。

4



「…ジョー」

「…ん?」
目が覚めた

「うわぁぁ!」
フランソワーズが覗き込んでいる。

「ど、どうしたの?」

「…眠れなくて…あの…」
もじもじしている

「ジョーのお布団に入ってもいい?」

「え⁈」
な…何を言って…

返事も待たず、フランソワーズはジョーの布団に潜り込む

「ちょ…ちょっと!」
柔らかい躰をぴったりとくっつける。

あぁもうどーにでもなれ!

ジョーはフランソワーズをガッと抱きしめた。




「…ん?」

何だ?今のは…

夢…。

左を向くと眠っているフランソワーズ。

ジョーは半身を起こし深く息を吐く。
何て夢を見てるんだ!

立ち上がり冷蔵庫の中からミネラルウォーターを出し一気に飲み干す。

しかし…
リアルな夢だった。
今も目の前には安心しきって熟睡しているフランソワーズがいる。

寝顔なんて今まで見た事なかったかもしれない。

「う〜ん」
寝返りを打つ。

「お〜い!そんな顔して寝ていると、オオカミさんに食べられちゃうぞ〜!」

全く起きる気配すらない。

ジョーはフッと笑い、立ち上がり、部屋のふすまを開ける。



 

5


朝になった。

フランソワーズが目を覚ます。

隣にいるはずのジョーがいない。

「あら?どこに行ったのかしら?」

いつからいなかったのか、それすらわからないほど熟睡していた。

探しに行こうと部屋のふすまを開けると、何かにつまずいた。

「⁈」

入り口前の床にまるまって寝ているジョー。

「どうしたの?そんな所で⁈」

起こしても起きない。

「ジョー?」

「ん?あ…おはよう」
ようやく起きたようだ。
「どうしたの?こんな所で、身体痛くなかった?」

「キミの側じゃ眠れなかったよ」

「え…?私何かした?」

「何にもしてないよ」
ジョーは笑うと、部屋に戻り布団に入る
「ちょっと寝ていい?まだ眠い…」
言い終わる前に眠っている。

フランソワーズは布団をかけると、眠っているジョーをしばらく眺めていた。

ジョーの言葉を思い出す
「キミの側じゃ眠れなかったよ」

「ありがとう」
フランソワーズはそっとジョーにキスをした。

 

6


国道の通行止めは解除された。

チェックアウトを済ます。

旅館から出ると、昨日の雨が嘘のような青空が広がっていた。

「帰ろうか」

帰りの車でのフランソワーズはとても上機嫌で、色々な話をジョーに聞かせた。

距離も確実に縮まった。

多分…フランソワーズに試されていたのだと…思う。

完全勝利…とまでは行かなかったが、結果はよかったかと思う。

最大の敵は他の誰でもない…自分自身だった。

思い出し笑いをしたジョーを、フランソワーズが不思議そうに見る。

「どうしたの?」

「何にもないよ」

フランソワーズはにっこり微笑むと

「とても素敵な旅館だったわ、今度はアクシデントではなく観光で来たいわ」

「そうだね」
ジョーも微笑んだ。

「また…連れて行ってくれる?」
小首を傾げたフランソワーズがとても可愛くて思わず笑みが出る。

「もちろん」



フランソワーズのお願いは、数年後叶えられる事になる。

今度は布団はくっついたまま。


~おしまい~

​2015.9.26~10.1

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