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1

 

 

 

 

 

 

 

「…あ、ピュンマ?駐車場で待ってるから…うっ!!」

「…どうした?ジョー?」


「…009、悪いな…お前に恨みはないが…俺の名は…X」



「…どうした?ジョー?!!」


ピュンマは駐車場に向かって走り出す。





フランソワーズは、取り込んだ洗濯物を畳んでいた。

ジョーの車の音がした。
あら?運転のクセが違う…。



嫌な予感がして、玄関に走る。

同時にドアが開く。 
「ジョー?!」
フランソワーズは悲鳴を上げる。

刺されて血だらけの意識のないジョーを、抱えているピュンマの姿だった。


「フランソワーズ、早く研究室に!!」
立ち尽くしていたフランソワーズにピュンマは声を上げる。



「ショックだろうけれど、今は君の力が必要なんだ…倒れないでくれよ…」
ピュンマも必死だった。

研究室にいた博士も驚いていた。
「何が起こったんじゃ!!」

「とりあえず怪我の状況を見てください、フランソワーズ、スキャン頼めるかな?」

フランソワーズが真っ青になっている。
ピュンマの声も聞こえてないようだ。


「ジョーが死んでしまってもいいのか!!!」 
ピュンマはわざとフランソワーズを怒鳴る。


フランソワーズはハッとして、ジョーの元へ向かう。

左胸を刺されていた。
「心臓…は大丈夫だったようよ、あと5㎜ズレていたら…。」


「博士!!早くオペを!!」
ピュンマが白衣になる。



フランソワーズはその場に座り込んだ。

「ありがとうフランソワーズ、後は僕らでやるから、君はリビングに行っていて。大丈夫、助かるから。」


ピュンマがフランソワーズの肩を優しく叩く。

「いったい…何が…」

 


一瞬のような出来事が、大きな波紋となり、広がっていく。

2

男はボートでとある島にたどり着く。



無人島の洞窟の中に似合わない鉄の扉があり、男が目の前に立った瞬間扉が上がる。

洞窟の中で、男の靴音だけが響き渡る。


男の進行方向に、一人の年老いた白衣姿の男が立っている。




「刺してきたか?」



男は白衣姿の男の前に立つ。

白衣姿の男よりはるかに背が高く、白衣姿の男は男を見上げる。




「何故アイツを刺さなければならないんだ?」



「アイツを作った奴に恨みがある。学会で負けたからな。

あんな奴が作ったサイボーグより、自分が作ったサイボーグの方が優秀だと思い知らせてやる!!」


男は無言で白衣姿の男から離れ、歩き出す。




意味がない…何のために?



疑問は頭から離れないが、白衣姿の男に逆らうわけにはいかなかった。



部屋に入り、ベッドに腰を降ろす。



両手を見つめた。
 



俺は…この手で…人を…刺した。

何にも感じられなかった。

頭の中が空っぽのような気がした。




ただ…虚しさだけが男の心を支配した。
 

3

ジョーが刺された事で、自国に戻っていたメンバーが続々来日した。

緊急事態だった。



傷の手当ても済み、何処も損傷がないはずだが、ジョーは目を覚まさない。

いったい…何が。


誰もが緊張していた。



研究所の回りを交代で見張った。



フランソワーズはメディカルルームから離れる事はなかった。

アルベルトがメディカルルームに入ってきた。


「少しは寝たらどうだ?」

青白い顔をしたフランソワーズが首を横に振る。




「何か起こった時、お前の力が必要だ。ジョーがいきなり刺されたんだ、普通ではない」



「…わかっている…わかっているわ…」
 



頭では理解しているつもりだった。
これは有事なんだと。

でも、意識のない恋人のそばにいたかった。


「ジョーが目覚めたら教えるから…少し寝ろ…」




フランソワーズは、アルベルトに促され、メディカルルームを後にする。

 





研究所から居室へ出た時、声を拾った。

「キャッ!!」

眼を使うと誰かが海岸道路から砂浜に…落ちた。




''ジェット、あなたの回りに倒れている人がいない?声を拾ったの…''


ジェットから返事が来た。



''女が倒れている…意識がないから連れて帰る''




フランソワーズは、寝ることを諦めた。


 

4

目を覚ますと見慣れない部屋だった。




…私は…。




「気がついたのね」

「あなたは…私はどうして…」

「あなた、海岸で倒れていたの」


「…え?」
段々と思い出して来たらしい。


「どうしたの?こんな夜遅くに1人で危ないでしょ?」



「人を…探していたんです。この辺りで見かけたという情報を聞いて…」


「あなたの名前を聞いていなかったわ。私はフランソワーズ。」

「私は…ミチ」

「ミチさんね…。誰を探していたの?」


「婚約者を…半年前に事故に遭い、行方不明になりました。最近この辺で見たという情報を聞いて、生きていると確信したのです。」

「それでこんな遅い時間に…」



「暗くてよく見えなくて、足を踏み外してしまったようです。助けてくださってありがとうございます。」



「転んだ時に頭を打ったようだけど、異常ないそうよ。うちにはドクターがいるから、安心して。婚約者を探すのは陽が昇ってからの方がいいから…朝までここで休んで。」

フランソワーズはミチに布団を掛ける。



行方不明の婚約者を必死に探すミチの姿が、今の自分と重なってしまう。



「早く見つかるといいわね」

 



ミチはフランソワーズを見て微笑んで頷いた。

 

 

 





 

5

アルベルトはフランソワーズがメディカルルームを出て行ったのを見届けると、イワンを呼ぶ。


テレポーテーションで難なく現れる。

「フランソワーズに出くわすと厄介だからね」




「…そうだな、ちょっとでも手掛かりを見つけたら、無理をしてでも探そうとする…今、彼女に倒れられると…痛い。」



アルベルトは眠っているようなジョーを見る。
 



イワンは気になっていた。

ジョーが意識を戻さないのは、ジョーの意思ではなく、何か外部の強い力がジョーの意識を閉じ込めていた。


「わからないんだ」

「珍しく弱気だな」



アルベルトがイワンの側に座る。

イワンは、ゆりかごから手を出し、ジョーの体に触れる。




「誰かが…ジョーの意識を閉じ込めているんだ…意図的でなく、無意識に…超能力者ではない…何だろう…この思念は…」

 

「どうした?」



「虚しさしか感じられない…」



「いったい何が起こっているんだ…」



アルベルトは珍しく弱気なイワンに不安になる。

 









虚しさが男の心の中を支配していた。
 


目が覚めた時、目の前の科学者は不気味に笑い、「X」という名を告げた。




無人島にある洞窟に、自分を造ったというオメガという科学者と2人、いつからここにいるのか、自分が何者なのかすらわからずにいた。
 



オメガの指示に従わなければ、自分は死ぬ事になるらしい。

だからあの男を刺した。

男は、オメガ博士が寝ている時間だけ解放される。

何をする事もなく、ベッドに横になると目を閉じる。



夢は見る。



いつも同じ夢だった。
大きな桜の木が一本



他には何もない。
 


風が吹くと桜の花びらが舞う。



それはとても哀しく美しい光景だった。

 



「X!早く来い!」


博士からの通信で、目を覚ます。



大きくため息をつき、部屋を出る。

6

「天気…いいわね」


翌朝、
リビングで朝食を食べていたフランソワーズとミチ。




ミチはフランソワーズの部屋で休ませてもらい、すっかり元気になっていた。



「色々ありがとうございました。これ以上迷惑かけるわけにいきません。1人で探します。」


頭を下げるミチにフランソワーズは


「私も一緒に探すわ…あなたの婚約者さんを」




ミチは驚いた顔でフランソワーズを見る。

「1人より2人の方が見つかる確率も高いと思うわ」


フランソワーズはミチにニコッと笑う。


「協力したいの」



「…ありがとうございます」





食器を片付けると、誰にも気づかれないように車に乗り込む。



アルベルトに見つかれば、連れ戻されるのはわかっていたから細心の注意を払い出掛ける。




誰かもわからない敵に狙われているのは事実だが、このまま家にいても何ひとつ解決しない気がした。


ジョーの車に乗り、海岸線を走る。



「婚約者さんの名前は?」
前を向いたまま、フランソワーズが質問をする。


「ナツです。」
名前を口に出した事で、彼の事を思い出したらしく、顔が曇る。



フランソワーズは視界の端でミチの表情を感じ取る。
気づかないふりをして、視線は前を向いたままミチに言う。



「私もあなたと同じなの、彼は事件に巻き込まれて意識不明なの、だからあなたの言い様のない不安がわかるの…何とかしなきゃって…」

「フランソワーズさん…」



「ね、ミチさん、ナツさんとの思い出の場所ってある?」



ミチはフランソワーズの方に顔を向けた。

7

「綺麗!!」

ビルの隙間にぽっかりと開いた空き地の一角。

大きな桜の木が今満開を迎えていた。


「見事ね」

桜並木はよく見ていたが、一本の樹でこれだけの花をつけている。
見事…という言葉しか出なかった。


「ここは…私とナツの思い出の場所なんです。」


「ナツは桜が好きでした。そしてここでプロポーズされました」




自分より幼い印象のミチが俯く。

その時の事を思い出しているのだろう。



「彼は両親を早くに亡くし、兄弟もいなかった。家庭に憧れていたんです。」


フランソワーズの胸がズキンと痛む。


「彼が大学を卒業する時に結婚しよう…と。2人で暖かい家庭を作ろう…って…なのに…半年前に交通事故に遭い、行方不明になってしまったの…」


ミチは大きな桜の幹に近づく。


「事故の衝撃で身体が車外に投げ出され、側を流れていた川に落ちた…と警察は言っていたけれど、彼は何処かで生きていると信じていたら…目撃情報が」



「それであそこにいたのね」

「彼は何らかの事件に巻き込まれていて、私の元に戻ってこれないんです。
だから見つけてあげないと…」


フランソワーズは人の気配に目を凝らす。


桜の影に男の人の影を見つけた。


その姿がよく見える位置に来たときに、ミチが叫んだ。




「ナツ?!」


 

8

男は車に乗り込んだ。



この前刺した男の事で仲間が集まってくる頃だから、偵察に行くように…と。

男に着けた発信器が、とある海岸あたりで途絶えた。



前に一度近くまで偵察に行ったがまだ揃っていない…とかで、そのまま帰った。


何故全員揃わないと攻撃出来ないのか?と聞けば、全員揃った所で攻撃した方が、ギルモアへのダメージも大きい…と。

どうやらギルモアという人物に個人的に恨みがあるらしい。




刺した男…。



自分と年もそう変わらない、ただの若者に見えた。



何故?個人的な恨みがあれば、その対象者を攻撃すればいいのに…。




虚しい…ただ虚しさだけが襲ってきた。

途中でふと車を止めた。




ビルが立ち並ぶ都心の一角にぽっかりと開いた空き地のようなスペースに、大きな桜の木が一本。

満開の桜が目に入る。


…この景色…何処かで…。




天を仰いで目を細めていると、後ろから声を掛けられた。



「ナツ…ナツでしょ?」


男は振り返る。

そこには2人の女性が立っていた。

どちらも…知らない。


「ナツ!!」

ひとりの女性が近づいてきた。


「何処に行っていたの?怪我はないの?半年も何をしていたの?」

矢継ぎ早の質問に黙っているしかない。



知らないのだから。



「ミチさん、ちょっと待って」

後ろにいた女性が中に入る。


「あなたはナツさんよね?半年前に交通事故で行方不明になった…」


「俺は…X」

「!!」

フランソワーズはその「X」という名を聞いている。

ジョーを刺した男の名前だと、ジョーの電話に出たピュンマが教えてくれた。


「あなた…あなたが…ジョーを…」


「ジョー?」

男は首を傾げる。


「…009よ…」


「あぁ」



「何故?何故そんなことを…」

「あんたの家の『ギルモア』に、うちのボスが恨みがあるらしい」

「え…?」


「まぁいい、そのうち家に寄せてもらうから…覚悟して待ってるんだな…」



男はミチを見ることなく、車に乗り立ち去った。


ミチはその場に座り込む。



「何が…」
 


今、目の前で起こった事が理解できていない。



それは勿論フランソワーズも同じだった。



 

 

 




9

「ここは…」



ジョーは目を覚ますと、辺りを見回した。





暗闇の中、一ヶ所だけライトアップされている場所があった。



そこには大きな桜の木。

何処からか風が吹き、桜の花びらが舞い散っている。

ジョーは舞い散る桜をぼんやり眺めていた。



「ここは…何処だ…」



現実味のない感じがした。
自分がここにいるのが不自然な…



死んでしまったのか…
一瞬よぎったフランソワーズの泣き顔



「幸せに…出来なかったな…」



見上げれば立派な桜。
何処からか風が吹き、桜の花びらが舞い落ちる。

 




桜の木の下に誰かが座っている

ジョーは近づいてみた。

 


自分と歳もそう変わらない青年がいた。
白いシャツとジーンズ姿がこの空間唯一の「現実味」だった。



「…お前は」
ジョーには見覚えがある顔だった。



「桜は散り際が美しい…そう思わないか?」
男は桜を見上げる。



「僕は…死んだのか?」



「大丈夫だ、死んではいない。」



「何故こんな事を」



「キミに恨みはない、恨みがあるのは俺のボスだ。」



「ボス?」

「オメガ博士だ、俺を作った」

 




「作った?…じゃあキミは…」



「交通事故に遭い重傷を負ったようだ。オメガ博士が俺を見つけ連れ帰り…そして…」



「その…オメガ博士とは?」
 


「キミのボスに恨みがあるようだ、キミ達より優秀なサイボーグを作り、順番に倒していく…」



「まさか!!」



「大丈夫だ、襲ったのはキミだけだ」



ジョーは息を吐く。

 




「俺には結婚を約束していた女性がいた」 


男は立ち上がる。



「半年前に交通事故に遭い、オメガに助けられてから、俺の人生は変わってしまった。」

「彼女にはそれから?」

「どうしているのかわからない…もう会うことはないかもしれない…」

「そんな事はない!ここから逃げ出せばいいじゃないか!サイボーグだって、幸せになる権利はあるはずだ!」



ナツはジョーに背を向ける。

「無理だ」

「僕たちが何とかする!だからここを逃げ出そう!」

「ここは現実の世界ではない。現実の俺には記憶が…ない」



「な…に…」



ナツはジョーに背を向けたまま、その場から消えた。
 

 

 


 

10

ミチは変わり果てたナツの態度に動揺を隠しきれないでいた。



ジョーと繋がった事で、フランソワーズはアルベルト達に事情を話す。



「俺達を狙ってヤツは必ずここに来るはずだ」

みな紅い服を着て待機する。

 



フランソワーズはジョーの様子を見に行く。
相変わらず眠ったまま。



「あなたがいないのはとても不安だけれど…力を貸して」

眠ったままのジョーにキスをする。



ミチは偶然その光景を見る。



「フランソワーズさん…ごめんなさい。あなたの大切な人をナツが…」

ミチは誰にも気づかれないように家を出た。


 



しばらくジョーの側にいたフランソワーズは顔を上げる。



「来たわ…」

家の外に待機しているアルベルトとピュンマに通信を入れると立ち上がり、後ろを振り返る事なくドアを閉める。


 

 


ナツは車から降りる。


後部座席からはオメガが降りた。



ナツの前に立ちはだかったのはジェット。

 



「何の恨みがあるかは知らねーが、俺達を倒すなど10年早い」

「自信があるんだな、自分の能力に…現に俺はお前の所の『最強』を倒している」

「奴はまだ死んじゃいねー、お前の相手もする気がないんだろうよ」

「最強がいなきゃ俺1人で全員片付ける事ができる」


ナツは辺りを見回した。

「ギルモアはどこにいる?」

「いねーよ、お前んとこのヘンテコ博士に会いたくないらしい」



ナツは目を閉じる。

「うまく隠しているつもりだろうけれど、俺には全部お見通しだ。
…博士、ギルモアを先に殺るか?それともここにいる連中を一気に殺るのか?」



「ギルモアを連れてこい、奴の目の前で連中を殺れ!そしてお前がこいつらより優秀だという事をギルモアに見せつけるのだ!」

「腐っていやがる…」


ジェットはオメガとナツのやり取りを脳波通信のチャンネルをあけ、他のみんなに聞かせていた。

 

11

フランソワーズは走っていた。


ミチの姿が見当たらない。

「まさか…」


 


ナツはジェットと対峙している。
博士の居場所が分かっている以上、ここから先に通すわけにはいかない。

「そこをどけろ!」

「いーや、どかないね」

「どかなければお前から片付ける事になる」

「それはこっちのセリフだ」


 


「ジェット!」
フランソワーズがやってくる。

 


「ミチさんがいないのよ!」

「何?」



ジェットが一瞬油断をした隙に、ナツは銃をジェットに向ける。

「あ、危ない!」
フランソワーズが瞬時にジェットをかばう。



その時、フランソワーズの前に何かが立ち塞がる。

「ミチさん!!」



「ナツ、もうこんな事はやめて!」

ミチはナツの目の前に来ると、ナツの持っている銃を降ろさせる。



「あなたはそんな事をする人ではないわ、あのオメガ博士に操られているだけなのよ、私と一緒に帰りましょう。」
まるで子供を説得するようにゆっくりと話す。

 


「何を言っているんだ」



「ミチさん、ナツさんは記憶を奪われているのよ!あなたの知っているナツさんではないわ!」
フランソワーズが後ろから叫んでも、ミチは振り返ることなく、ナツの目の前から離れようとしなかった。



「ナツ、覚えている?あの桜の木を。今年も満開よ、一緒にお花見に行くって約束していたわよね」



ナツは黙ったまま、ミチを見ていた。
欠けている記憶を必死に取り戻そうと努力しているように見えた。



「何をやっている!そんな女に用事はない!」



オメガはそう言うと、ミチに向かって銃を向けた。

 

12

「ミチさん!!」
フランソワーズが叫ぶ。



ジェットも声を無くす。



オメガが撃った弾丸は、ミチを貫く。



「!!」



ナツは咄嗟にミチを抱きとめる。



「…どうして…」


「あなたにこれ以上罪を重ねて欲しくなかった…どんな身体にされたってあなたはあなたよ、…一緒に…なりたかった…」

「…ミチ?」

「…よかった…記憶戻ったのね、もうこれ以上、フランソワーズさん達を苦しめ…ないで」

「ミチ…」

 



フランソワーズはその光景に目を覆うしかなかった。
ジェットも反対を向き、うつむいている。


 

 


「X、早く奴らを殺れ!」
オメガはナツに言い放つ。

ナツは抱きしめていたミチをゆっくりと下ろすと、オメガの元に歩き出す。

「博士、あんたって人は…」



ナツとオメガが向かい合ったと思ったその時、オメガの膝がガクンと崩れた。

ジョーを刺した時のナイフが、オメガの胸に突き刺さっていた。

「X、お前…こんな事をしたらどうなるか…分かっているのか」

「もちろんだ」

オメガは息絶えた。



ナツはオメガを右側に抱え、既に亡くなっているミチを左側に抱えた。

「早くここから離れろ!!」

「何を言っているんだ!!」
ジェットがナツの言葉に動揺している。
フランソワーズには聞こえた。


「ジェット、今すぐ逃げないと」
「は?」



「爆弾の起動音…」
フランソワーズが絞り出すようにつぶやく。



ジェットはフランソワーズを抱きかかえると、加速装置を使ってその場を後にする。


ナツは深呼吸をすると、2人を抱えたまま、海に身を投げた。

 


間もなく海底が揺れ、水柱が立つ。

 

 



フランソワーズとジェットと、一連のやりとりを聞いていた他のメンバーが集まってきた。



海は何事もなかったように静まり返った。

 



「何だったんだ…一体」


誰も言葉にならない中、ジェットがポツリと口にする。


 

13

まるで朝が来て目が覚めたようだった。


何日眠ったままだったのかわからない。



ジョーは目を開けると、メディカルルームのベッドから起き上がる。

メディカルルームのドアが開く。
フランソワーズが入ってきた。

「ジョー、目が覚めたのね」

ジョーはフランソワーズを抱き締め、軽くキスをする。
ふっと香った硝煙の匂いに、何かが終わった事を知る。



「ちょっと行きたい場所があるんだ」
突然のジョーの言葉に首を傾げるフランソワーズ。
「多分、キミが報告したい事に関係していると思うから」


ナツはジョーにある地図を残していた。
何故なのかはわからない。あの時はお互い無意識な状態だった。



その場所は、ジョーが無意識の中で見た桜の木がある所だった。
桜の花は舞い、風に吹かれ飛んでいく。


あの時と同じ光景にただ言葉をなくす。


「意識を失っている間、ここにいたんだ。」



「…あなたは、意識を失っている間、何を見ていたの?」
フランソワーズがジョーに近づく。

「ボクを刺した男に出会った。」

「ナツさんに?」



「名前は言わなかった。あぁ、ボクを刺した時Xと名乗った。彼も心だけこの空間に現れた。」



ジョーは空を見上げる。
桜の花の間から空が見えた。
あの時は真っ暗だったのに
ここは現実なんだと気づく。



「事故に遭い、サイボーグにされた。ボクを狙ったのは、博士に恨みがあるから、でも彼自身はオメガという科学者に操られているだけで、ボク等に何の恨みもないと」



フランソワーズの顔が曇ったのに気づいたが、そのまま話を続ける。

「結婚を約束していると言っていた。ボク達が何とかすると言ったら、現実の彼には記憶がないと…」

 



「ジョー…もう、終わったのよ…全部」
今にも泣き出しそうなフランソワーズと向かい合う。

「終わった…?」

 


「オメガ博士という科学者が、過去にギルモア博士に学会で理論を覆された。それに恨みを持っていて、私達より優れたサイボーグを作り、復讐の機会を狙っていた。半年ほど前に交通事故に遭遇し、瀕死だったナツさんを連れ帰り、サイボーグにして、記憶を消し、操っていたの。ギルモア博士の目の前で全員を殺すのが目的だったみたい」



フランソワーズは涙を堪え話を続ける。



「ナツさんの恋人のミチさんがナツさんを探している時具合が悪くなって、私が声を拾ってしまったの。しばらくウチにいたわ、そこに丁度ナツさんが現れて…」



フランソワーズの目から涙がこぼれる。



「ミチさんがナツさんの記憶を取り戻すために必死に説得している時、オメガ博士がミチさんを撃ったの。ナツさんは記憶を取り戻したけれど、ミチさんは亡くなってしまった…怒ったナツさんはオメガ博士を…でもその瞬間」



「どう…したんだ?」
 


フランソワーズは溢れる涙を堪えきれず、震える声でやっと話す。
「ナツさんの身体には爆弾が仕掛けられていたの、恐らくオメガ博士に逆らうとスイッチが入るようになっていたみたい…」

 


「…じゃあ…」

「終わったの…みんな…終わったの」



「…そんな…そんな事って…」
ジョーの声も震えていた。


 



「なんで…こんな事になってしまったんだ!!何故彼らは死ななければならなかったんだ!!何故…助けられなかったんだ…」
 


ジョーはその場にうずくまる。
その肩は震えていた。

 


フランソワーズは、うずくまるジョーを優しく包み込むように抱きしめる。

ジョーは声を殺して泣いていた。



きっと彼も無意識な世界の中で、ナツと会話をしていたのだろう。
何も出来なかった後悔と無念さに涙しているのだろう。

 


2人はしばらく抱き合いながら泣いていた。



もう戻ることのない2人を想いながら。



そんな2人の頭上には桜の花びらが舞い落ちていた。

 


 

 



桜は散り際が美しい…


 

 



end
 

2016.3.20~4.4

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