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ding!

 

1

 

 

 

 

 

青い空
白い雲
教会の鐘が鳴り響く中
僕の目の前には


純白のウェディングドレスを着たフランソワーズさんが微笑んでいる

これは夢?

…いや、夢ではない!





2日前、フランソワーズはコズミ博士の研究所の所長の奥さんの冴子に呼び出される。
呼び出された場所は冴子が経営する小料理屋。

入って席に着くなり

「お願いっ!」
と頭を下げられた。

「ち…ちょっと、冴子さん、どうしたのですか?」

「うちの常連のお客様なんだけど、最近フリーのウェディングプランナーになって、初めてのウェディング見学会を企画したのにモデルの子が急病になって…」

「モデルの子が治ってからでは?」

「教会も無理言って押さえたらしく、その日以外借りられないらしくて…彼女はその教会でなければいい演出は出来ないと言うの」

「まさか!私にモデルを?」

「お願い!日にちがなくて、思いついたのはあなた達…あれ?島村くんは?」

「ジョーはアメリカです。来週まで帰りません」

「え?新郎がいないの?」

「新郎って…ジョーまで使う気なんですか?急病は花嫁だけなんでしょう?」

「それが2人共なの、インフルエンザですって。困ったわねぇ…新郎役になれる人…あっ!」


冴子はニコリとすると、何処かに電話をかけ始めた。

2

コズミ博士の生化学研究所

所長のケイタイが音を立てる。

「はい、なんだ冴子か、どうした?
え?フィリップならいるが…」

隣の机にいたフィリップに所長が自分のケイタイを渡す。

「フィリップ、冴子が用事あるらしい」

「?」

フィリップも何の用事かと所長のケイタイを耳に当てる。

「冴子さん、僕に何か?」

「これからお昼食べに来ない?あなたの大好きな人が来ているのよ!」

フィリップの頭の中に浮かんだのはフランソワーズ。

「え?まさか?」

「そう、そのまさかよ!主人には私から頼んでおくから早く来て!」

フィリップはケイタイを所長に返す。
「冴子さんのところに行ってきます」
他の研究員に告げると、白衣を脱ぎ、短い丈のコートを羽織る。

冴子さんが下心なしでお昼をご馳走してくれる訳がない事くらい、フィリップも承知していた。

でも…。

フランソワーズが同席となると…。

何だろう?

いや、まてよ、名前を言っていないではないか!
でも、僕の大好きな人は彼女しかいない。

冴子さんには酒の勢いで言ってしまったし、愚痴も(勿論フランソワーズさんの愚痴でなく、ジョーさんだが)聞いてもらっている。

電車のドアが開き、人が車内から押し出される。
まるで密封になっていた袋を押し開けた瞬間の空気のように方々に勢いよく広がっていく。

フィリップもその空気と化し、勢いよく飛び出すと、冴子の店の方向に歩を進める。

店はまだ営業時間外で、のれんはなかった。

引き戸には鍵がかかってなく、引くとカラカラっと音がした。

「あら、早いわね」
冴子の声の後ろに座っていた人を見て安堵する。

「フィリップさん?…と、いうことは」

フランソワーズの怪訝な顔を見た途端、冴子の下心は悪い方の「お願い」なのかと身構えた。

 

3

「フランソワーズさん、お久しぶりです。で、冴子さん何かお願い事があるんですよね?」

来て早々フランソワーズの顔を見ても喜びもせず淡々と話すフィリップに冴子は機嫌を悪くする。

「せっかくあなたにはいい話をしようと思っていたのに随分じゃない?」

「だって冴子さんがお昼をご馳走してくれる時は…いつも何かトラブルが…」
フィリップはちらとフランソワーズを見る。

2人の様子を黙って見ている。

フランソワーズさんまで呼びつけるんだからきっと相当難易度の高いお願い事なんだ。

この前は確か…
お客さんが拾ってきた捨て猫の里親探し…。

とりあえず目の前には動物はいないようだ。

「ねぇフィリップ君、明日と明後日用事ある?」
冴子が機嫌を直したようで質問してきた。

「休日ですから…」

「予定あった?」

冴子の言葉にフィリップはチラリとフランソワーズを見る。
ここで「予定ないんですよ」と即答するのも癪だ。
フランソワーズさんに休日の予定もないツマラナイ男と思われたくもない。
…実際は撮り溜めたドラマと映画をジャージ姿で寝そべって見ているだけの予定だが…。

「予定って予定は無いですが…」

その言葉に冴子の顔がパッと華やいだ。

「そう、じゃ決まりね!フィリップくん、明後日フランソワーズと結婚して」


ええええええ〜????

思わず椅子から転げ落ちる。

「フィリップさんっ、大丈夫?」
フランソワーズがフィリップに手を貸す。


「けけけっこん〜?」
今まで見たことのないような動揺のフィリップに冴子は笑いを堪えている。


「そう、結婚よ!あなたフランソワーズと結婚したいって言ってたじゃない!」

「ちょ!冴子さん!」
フィリップは顔を真っ赤にする。

「今ここで言う事ですか?!」
フィリップは恐る恐るフランソワーズの顔を見る。

フランソワーズは笑顔だった。

「?」

「いやねぇ、フィリップさん、本気にしないで!ブライダルフェアのモデルですって」

自分の気持ちを暴露されたのに、肝心の相手は冗談に取っていた。
…いつもの事だ、くじけないぞ。

「でも、僕でいいんですか?」

「あの男」の存在を匂わせてみた。

冴子はニコッと笑うと
「島村くん来週までアメリカだから、黙っていましょうよ!帰国するまでに済ませてしまうんだから気づかれる事はないわよ!」

「でも…」
フィリップはバレた時の自分の状況を考えゾッとする。

フランソワーズは暫く考えていたようだが「そうね、その方がいいかも」

その言葉に若干棘があるのをフィリップは聞き逃さなかった。


 

4

誰もいない家に帰る。

広いエントランスも、その奥の広いリビングも真っ暗だった。

今回のアメリカ出張は、起きているイワンまでも同行し、残されたのはフランソワーズだけだった。

バレエスクールのレッスンがあったからの留守番だったが、冴子がバレエスクールの小松にフランソワーズを貸して欲しいと早々に手を打っていたため、レッスンは休みとなった。

それどころか先生の花嫁姿を見学したいと言う生徒達が多数で、みんなでブライダルフェアを見学に来るという。

真っ暗な廊下の電気を点けていく。
1人ではただ広いだけの家。
部屋の電気を点けて、ベッドにダイブする。

仰向けになり、ケイタイを眺める。
履歴にはジェットの名前しかない。

ジェットも今回同行しているのだが、写真付きで「今日出会った美女」とタイトルを付けて見たくもない画像を見せられる。

イワンのお守りだよ。と苦笑いしていた筈のジョーが、ジェットおすすめの美女と楽しそうに談笑している。

出かける前は離れたくないなどと毎晩このベッドにいた人が…。

もうこのベッドも彼の温もりも匂いさえも無くなっていた。

「ウェディングドレスかぁ…」

場の勢いというか、冴子さんに押し切られたというか、断りきれずに引き受ける事になってしまったが…。

「やっぱり一言言っておいた方がいいわよね」

またジェットからの連絡が来ていた。

「こっちは楽しくやっているから心配ご無用!」

添付されていた画像を見て、ケイタイをベッドに放り投げた。



 

5

「…キ、キレイです!」

色々な言葉を頭に浮かべてはいたが、ドレスを着たフランソワーズの姿を目の前にしたフィリップは、キレイという言葉しか出すことができなかった。

フランソワーズはにっこり笑う。

「よろしくお願いします」

「い、いや!こちらこそ!」

「フィリップさんもとっても素敵よ」
フランソワーズの言葉に赤くなる。

「1枚いいかしら?」
冴子が2人並べて写真を撮る。

「あ、その写真…」
フィリップが言いかけると
「大丈夫よ、後でフィリップくんのスマホに送っておくから」

「そうじゃなくて!ジョーさんには!」

冴子は笑いながら
「当たり前じゃない!フィリップくん、殺されちゃう」
言葉の割には嬉しそうな顔をしている。

所長からも強く言ってもらわないと…。
フィリップは幸せのすぐ側にある恐怖にビクビクしていた。


冴子のお店の常連で、今回のモデルの件を持ちかけたウェディングプランナーの滝沢が2人を見て感動する。

「急な話ですみません。冴子さんからいいモデルがいると紹介していただいて。こんなに素敵なモデルとは本当にありがとうございます!」

こういうのは日本人よりも異国のモデルの方がいいのよ!と上機嫌な滝沢の話を聞いていて、フィリップは自分はここでは「異国」なんだと実感する。
そして隣のフランソワーズも自分と同じ国のヒト…。

そりゃあ隣はジョーさんの方が似合う。
僕なんかがフランソワーズさんの隣なんて…。
でも満足そうな滝沢の笑顔を見ると、自分ももしかしたらフランソワーズさんとお似合いに見えるのかと…。

衣装の試着を終え、打ち合わせを終えた。
あとは明日の本番を待つばかり。


フィリップはフランソワーズを車で送る。
助手席のフランソワーズは言葉も少なくどこか元気がなかった。

「今日は疲れましたね」
沈黙についフィリップが声をかける。

「明日、無事に終わるといいわね」
フランソワーズも笑顔で答える。

家に着き寄って行ってという言葉を断り、フィリップは今来た道を戻る。
流石に誰もいないのにお邪魔するのは気が引けた。

車のラジオから、明日は快晴です。と流れて来た。

「とにかく明日無事に終わらせよう」

フィリップの独り言は、少し開けた車の窓から海岸線に流れて行った。

 

6

教会には結婚を控えたカップルや滝沢の仕事を見にきたスーツ姿、フランソワーズのバレエの教え子達、子供以上に着飾った親達が集まっていた。

そして何故か冴子は着物姿。


「私の可愛い子達の晴れ姿よ!気合い入れなきゃ!」


いや、別にこれはいわゆる「模擬」で…。

フィリップはかなり動揺していた。


控え室の鏡の前でフィリップは深呼吸をする。

衣装は昨日と変わらないタキシードだが、胸には白い生花のコサージュ。
恐らく…
フランソワーズは同じ花があしらわれたブーケを持っているに違いない。


ここに来る車の中で、フランソワーズに聞いてみた。

「ジョーさんは本当に今回の事知らないんですか?」

フランソワーズは顔色を変える事なく

「ええ、連絡来ないもの」と言う。

他に同居人がいるかもしれないが、一緒に暮らしているには変わらない。

離れたら寂しくないのだろうか?



僕なら…


離れていても決して忘れない。
その地で見たもの聞いたもの、美味しかった食べ物をきっと知らせたくなるだろう。

毎晩おやすみと言い
朝起きたらおはようと言う。

時差があっても構わない。

…なんて。


どんなに想ったって彼女の心にはあの男しかいない。

たとえ連絡がなくとも、それが2人のスタイルなら側から見たら大丈夫かと思えても2人は大丈夫なのだ。

悔しいけど…。

フィリップは曲がった蝶ネクタイを治す。
今日はフランソワーズの相手なんだから、役に徹しよう。
たとえ彼女が僕にあの男を重ねていたとしても…。

控え室のドアがノックされる。

「そろそろお願いします」

「よし!」

フィリップは控え室の扉を開けた。

 

7

フィリップは祭壇前でフランソワーズを待つ。

父親役はコズミ博士がいいという話だったが、お願いするとなるとギルモア博士の耳にも入るだろう。そうなればもう…
フィリップの人生は終わる。

命をかけてもフランソワーズの新郎役になれるなら悔いはないと思ってはいたが、まだ自分にはやらなければならないことがある。命は惜しい。

そこで所長が父親役となった。
少し若い父親だが、フランソワーズにはぴったりだ。

教会の扉が開き、ゲスト達が「おぉ!」と歓声を上げる。

ベールダウンして顔はよく見えないが、それでもとても美しい。
所長と腕を組み少しづつ祭壇に近づく。

フィリップは胸がいっぱいだった。

ベールで顔を隠しているが、自分の目の前にはウェディングドレスを着たフランソワーズがいる。

ゲストが起立し、賛美歌を歌う。
教会のパイプオルガンの音色が尚厳粛な雰囲気にしてくれる。


牧師が2人を前にし、誓約の言葉を述べる。


「あなたは、その健やかな時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しき時も、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命の限り堅く節操を守ることを誓いますか?」 

健やかな時も
病める時も
喜びの時も
悲しみの時も…

フランソワーズさん!どんな時だって…
僕はあなたの側にいます。
離れた途端に連絡をくれない男とは違います。
たとえその男に半殺しにされたって…
僕は…
あなたを…


かなりぼんやりしていたのだろう。
ベールの中から「フィリップさん」とフランソワーズが小声で呼んでいた。

「あ」

目の前の牧師が怪訝な顔をしている。

「ち…誓います!」


この時点で何故か冴子はすすり泣いている。
息子同然に可愛がっていたフィリップと、娘同然に可愛がっていたフランソワーズ。
もうすっかり親モードになっていた。


フランソワーズはそんな冴子を見てクスッと笑う。
フィリップに小声で「冴子さん感動しているわよ」と言う。

フィリップが振り返ると人目をはばからず鼻をかんでいた。

さえこ…さん。

牧師はひとつ咳払いをする。
早く進めたいようだ。

フランソワーズにも同じ誓約の言葉を述べる。

「誓いますか?」

フランソワーズが口を開いたその時、教会の扉がバンっ!と大きな音を立てて開いた。



 

8

扉が思いきり開かれ、一同が振り返る。

逆光で顔はみて取れないが、スーツ姿の男の様だ。

しんと静まり返った教会内に男の靴音だけが聞こえる。

だんだん顔もはっきりしきた。

フランソワーズやフィリップの関係者は全員息を飲んでいた。

フィリップは金縛にあったようにそこから動けなくなっていた。
何故?
何の連絡もなかったのに
何故今、この瞬間に…。

フィリップの目の前に立ったスーツ姿の男…。


「ジョー?どうして?」

声を出したのはフランソワーズ。

ジョーはフィリップには何も告げず、フランソワーズをいきなりお姫様抱っこするとこう言った。

「みなさん、この教会に爆弾が仕掛けられていると通報がありました。早く安全な場所に!」

そしてジョーとフランソワーズは
「消えた」


爆弾などと言われ、教会内はパニックになっていた。

後から来たジェットが、ゲスト達を誘導する。

唖然としているフィリップに声をかける。

「お前なかなかやるな」
その顔は新しいおもちゃを見つけた子供のようにワクワクしていた。

「爆弾って?」

「通報があってジョーと俺が慌てて『飛ばされて』来たんだけどよ、まっさかお前とフランソワーズが結婚式挙げているとはね」

「ジョーさんは…」

「お前…しばらく国に帰った方がいいかもな、あいつああ見えて結構執念深いからな」

誓いの言葉すら交わせなかった。
ベールアップすら…。
フランソワーズさんのベールを上げるのは…やっぱりジョーさんなんだ。

僕にはまだ覚悟がないというのか?
神様はどうしてこんないたずらを…。

爆弾処理班がフィリップとジェットと逆走して教会に入って行った。


安全な場所には、教会にいた人々が集められていた。

突然の男の乱入に、これもイベントなのかとときめいていた結婚を控えた女性達に、相手の男性は呆然としている新郎役のフィリップに自分を重ねてため息をつく。

そして肝心の花嫁役と、乱入した男の姿がない。

「映画みたいよね」
あちこちから声が漏れる。

冴子はフィリップの肩に手を置いた。

「主役…奪われちゃったわね」

残念そうなように見えてまたまた笑顔な冴子に、フィリップは返す言葉なく空を見上げる。

「みなさん、もう大丈夫です!爆弾は撤去しました!」

本当に爆弾が仕掛けられていたんだ。

誰が…
何の為に?

フィリップは頭を抱えその場に座り込んだ。


 

9

目を開けるとそこは小高い丘の上だった。

下は街が見渡せて、目を凝らすと先ほどいた教会が見えた。

「いったいどういう事なの?」
フランソワーズは澄ました顔をしているスーツ姿のジョーに怒る。

ジョーは「シーっ」と人差し指を口に当てる。
「ちょっと静かにしてくれる?」

ジェットと交信中なのか、2人のチャンネルにしているから、フランソワーズには聞こえない。

「わかった、これから帰るよ」
最後の言葉だけは肉声だった。

交信を終えたのか、ジョーがフランソワーズと向かいあう。

「教会に爆弾が仕掛けられていると、イワンが言い始めた。アメリカにいた僕とジェットにはどうする事も出来ないと言ったら、フランソワーズがそこにいると言うから、何とかならないのかと聞いた瞬間、僕とジェットは飛ばされていた。」


ジョーはフランソワーズの顔にかかるベールを上げる。

「さて、そっちの説明をしてもらおうか?これはどう言う事なんだい?」



フランソワーズは向かいあうジョーを見た。
もっと怒ると思っていたのに
淡々と作業をこなすかのように
それ以前に
この姿を見て何も言わないなんて。

「フィリップさんは…」


事の経緯を説明するかと思っていたジョーは、いきなりフィリップの名が出てきた事に怪訝な顔をする。


「私のこの姿を見て『キレイ』と言ってくれたわ。あなたは平然とした顔で事件を解決しました。それだけ?」


フランソワーズの言葉にしばらくぽかんとした顔をしたジョーだったが、急にくるりと後ろを向く


「僕以外の男の為に着たドレスを褒めろと?そんなキミに『キレイ』と言えと?」

再びフランソワーズの方に身体を向ける。

「冗談じゃない!そんなドレス今すぐ燃やしたい位だ!」

その顔は先ほどとは違った。

「いいよ、このまま加速して帰るから。服燃えたっていいよ、部屋に向かえば」


教会からここに着く時は最小限の加速で、服が燃えないよう計算してくれていた事にフランソワーズは今更気付く。


「ちょっと…それはやめて、このドレスは借り物なのよ、ちゃんと話するから…」

再びお姫様抱っこをしたジョーに対し、フランソワーズは抵抗する。

ジョーはふーっと大きく息を吐き、フランソワーズを降ろす。
怒りを抑えているようにも見えた。

「…ありがとう…実は2日前に冴子さんからお店のお客様のウェディングプランナーさんが ブライダルフェアをやるのにモデルが急病で困っているからお願いできないかと話があったの」

「キミはモデルじゃない、引き受ける事はなかったんじゃない?」

「冴子さんも困っていたし、最初はあなたが日本にいると思っていたから、私とあなたに頼みたかったらしいの、でもあなたがアメリカにいるから無理だという事になってフィリップさんにお願いしたの。フィリップさんも半ば強引にモデルにされたようなものなのよ」

「じゃあ何故僕にモデルをやってもいいか連絡くれなかったんだ?」

「あなたは…アメリカに行っている間、私に連絡してくれた事はあって?」

「それは…時差もあるし…」

「ジェットは毎日連絡をくれたわ。あなたと美人科学者の楽しそうな会合写真をね」

「え?」
今まで強気だったジョーが怯む。

「そんな写真を毎日見せられて、あなたに連絡しようなどと思う?それじゃあ私からも聞くわ、何故あなたは私に連絡をくれないのかしら?」

「それは…」

その先の小声でボソボソっと言った言葉をフランソワーズは聞き逃さなかった。

フランソワーズはクスッと笑う。

「おあいこね」

「…うん」

「じゃあまず服が燃えない程度に教会に帰してくれる?とりあえずこのドレスを返したいわ。」

「わかりましたよ」

ジョーは再びフランソワーズをお姫様抱っこして消えた。

10

数日後、フランソワーズは冴子に呼び出された。

「滝沢さんにはご迷惑おかけしました」

「仕方ないわよ、爆弾が仕掛けられていたんだから…そうそう、あの後滝沢さんに警察から連絡があったの、爆弾は爆発しないよう作られていたようよ」

「誰が何の為に?」

「この企画をよく思っていない人が島村くん以外にいたとしたら…」

フランソワーズはふとジョーの言葉を思い出した。

「イワンが教会に爆弾が仕掛けられていると…」

「ま、まさかね」

「え?何か心当たりでも?」

「いえ…何も」

「島村くんはどうしたの?」

「昨日アメリカに行きました。まだ仕事が残っているとか」
本当はイワンのテレポートで帰国していたから、きちんと飛行機で帰らないと出国手続きをとならかった事になる為、再びジェットと飛ばされた。

「島村くんに怒られちゃった」
冴子が舌を出す。

「お客様の頼みをいちいち聞いていたらキリがないでしょう?なんて」

「すみません…」

「あなたが謝る事じゃないわよ!あ、そうだ!滝沢さんが今回の事情を知ってお詫びに島村くんと2人で写真だけでもって言っていたわ」

「せっかくのご好意ですが、今回は…
まだ機嫌も直っていないですし…」

「あら、結構根にもつのね」

「黙っていたのが一番許せなかったようです」

「連絡すれば良かったわね」

フランソワーズはあの時ジョーが小声で言った言葉を思い出した。

“連絡したら会いたくなるから“

フランソワーズは思い出しくすっと笑う。

「そうですよね、最初から連絡すれば良かったんですよ」

2人は顔を見合せ笑った。


 

11

フランソワーズは冴子に気になっていた事を聞く。

「あの…フィリップさんはその後…」



ジョーと教会に戻った時にはすでにフィリップの姿はなかった。

それから会っていない。


「あぁ、フィリップ君ならフランスに帰ったわ」

「え?」


「日本にいると島村くんに殺されるから」

「え?本当なんですか?そんな事するわけないじゃありませんか!」

フランソワーズが慌てると、冴子は笑う。


「冗談に決まってるじゃない!フィリップ君全然まとまった休みを取らないから、主人が強制的に国に帰したの。
お母さんもきっと心配しているだろうから」

「仕事そんなに忙しいのですか?」


「何だかよくわからないけれど早く一人前になって助けたい人達がいるとか…」



フランソワーズは気づいた。
助けたい人達は自分達だという事を。
何かの力になりたいんだと前に聞いた事があった。


「そうなんですか…フランスのお母さん、久しぶりに息子さんに会えてきっと喜んでいるでしょうね…」







フランス郊外

フィリップは久しぶりの故郷をのんびりと過ごしていた。

「日本の皆さんに迷惑かけていないの?」

久しぶりの再会に、母親は喜ぶ事もなく、お小言ばかりだ。

「所長さんの奥様から日本のお酒が送られて来たわ。ちゃんとお礼言っておくんだよ!」

返事もそこそこにスマートフォンの画面を眺めていた。

冴子さんから送られて来た写真。


「ちょっと!あんた!この可愛いい女性は誰なんだい!」

母親に見られているのも気づかずにポーっと眺めていたらしい。

「友達だよ」

「友達がウェディングドレス着て隣に立っている訳ないでしょう?誰なの?早く連れてきなさい!」


「どうしてすぐ…こうなるんだ」


「早く孫の顔が見たいんだよ」


「それなら当分無理そうだよ」



フィリップは自分の故郷の風景をフランソワーズに見せたかった。

パリに帰っているタイミングで誘おうとは思っていた。
でも母親の態度を見たら、連れてきたなんて事になったら大変な事になりそうだ。



フィリップは騒いでいる母親に目もくれず家を出る。



少し歩くと小高い丘があり、自然を一望できた。

子供の頃からこの景色は大好きだった。


パシャり
シャッター音が鳴る。



せめてこの景色をフランソワーズに見せたいと写真を送ろうと思いふと気づく。


もし

返事が来たら
彼女の事だ
「素敵な景色ね」と返事が来たら…


逢いたくなるな…。



フィリップはジョーが離れている時に連絡をしない理由が何となく理解出来たような気がした。


写真をスライドした。
2人笑顔で並んだ写真
自分はタキシード
彼女はウェディングドレス



フィリップはふっと笑うと、スマートフォンをジーンズのポケットに入れ、家に戻った。



〜おしまい〜


 

2016.11.5〜11.30

扉を開けた時のジェットバージョンは​こちらからどうぞ!!

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