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First illumination

1

 

 


いつも何かから逃げていた。
 


平穏な日々などもう来ないと思っていた。

とりあえず落ちつけた日々の中で少しづつ人間らしさを取り戻そうとしていた。


眠っているうちに季節は冬になっていた。
自分がどれ位意識がなかったのか…
季節が変わるほどだったのだから…




彼女は意識不明の間、ずっと僕を見守っていてくれた。
常に声を掛けてくれていたらしい。

記憶の底で、彼女が僕を呼んでいた。

目が覚めた時、彼女は泣いていた。
何故泣いているのかその時はわからなかったが、どうやら僕は瀕死の重傷だったらしい。

こんな日が来るなんて…
何かから逃げる事もなく、戦いたくないのに戦わなければならなかった日を思うと、何もない今日がとても幸せだ。

身体も完全に治った時、フランソワーズをドライブに誘った。

彼女と何もないドライブは初めてかもしれない。




彼女は少し戸惑った顔をしたが、すぐ笑顔で
「支度をするから少し待っていて」
と、自室に消えた。

2

 



失いかけて初めて気づいたあなたへの気持ち。



何度も呼びかけた。
呼ばなければ帰って来ない気がした。
あなたが目覚めなければ…

私は…
生きる意味を失ってしまうかもしれない。




長い眠りから覚めた彼は、何事もなかったかのように回復した。

私との距離も以前と同じだった。

その距離に少し安心している自分がいた。

 



何事もない平穏な日々が続いたある日、彼が突然「出かけようか?」
と、誘ってきた。

 


偵察などでよく一緒に出かけてはいたが、何もないドライブは初めてだった。

 



どうしよう…気の利いた服なんて持っていない…。

彼を少し待たせて、自室のクローゼットから冬物の服を手当たり次第出してみた。

ため息が出た。

おしゃれをするなんて生活…ここ何年忘れていた。
生きるだけで精一杯だった。

 


服を選びため息をつける自分が今幸せなんだと思い直し、適当に組み合わせると、コートで誤魔化した。

3

 

 



自分はあのまま死ぬんだとあの時は思っていた。

助けに来てくれたジェットには申し訳なかったけれど。

こんな終わり方もいいかな、なんて事まで考えていた。



でも…



後悔はひとつだけあった。



それは…





車は都会から離れて行く。
日も暮れてきた。

車中で気の利いた話も出来ず、2人黙っていた。
「何もない」とどうしてこうなっちゃうんだろう。

仲間達が、意識を失っている間のフランソワーズの様子を事細かに教えてくれた。

だから誘った訳じゃないけど…



助手席のフランソワーズはずっと窓の外を見ている。

暗くなり、景色など見えないのに。

窓ガラスが反射して、フランソワーズの表情が見えた。
ちらっと助手席を見る。

楽しくないのかな…



目的があった時のドライブは、お互いに得た情報を語っていたような…


「もうすぐ着くよ」
やっと出た言葉に、真っ暗な景色を見ていたフランソワーズが振り返る。

4

 

 



やっぱり意識してしまう。

何故私を誘ったの?
私の気持ちはとっくに知っているのよね?

運転している彼は何度も見ていた筈。
こんな「何もない」ドライブは多分初めて。

辺りはだんだん暗くなる。
何故こんな時間にドライブに誘ったんだろう。


もう景色も見えないけれど、反対を向いていないと、動揺を悟られそうで…


「もうすぐ着くよ」

静かだった車内に、突然の彼の声。
驚いて振り返る。

にっこり笑った彼の顔。

思わず笑い返してしまう。

 




駐車場は既に混雑していた。
空いている車と車の間に、バックでスッと車を入れる。



後方確認をする時に、助手席側に身体を寄せる。



彼の空気を急に感じた。
慣れていた筈なのに、戸惑っている。



戸惑いを隠すかのように、車が止まると同時にドアを開ける。



山の上にある駐車場から、見下ろした世界に、フランソワーズは思わず声を上げる。



「綺麗…」
 

5

 

 



山の中に作られた遊園地の敷地内に、沢山の電飾が散りばめられていた。



山の上からイルミネーション全てを見る事が出来た。

それはまるで光の海のような…



「下に降りてみようよ」

ジョーは車から降りると、人の波の流れる方向を指差す。

下に降りてみると、山の上から見た景色とまた違って見える。

一つの絵画のようなイルミネーションに見惚れて立ち止まる。
ふと我に返り辺りを見渡すと、ジョーの姿がない。

 


急に不安になる。



進行方向にある光のトンネルにジョーの後ろ姿があった。



光に包まれ、後ろ姿でだんだん離れていくジョーに、もう帰ってこないんじゃないかと思っていた日を思い出してしまった。
 


「ジョー!」



呼ばれたジョーは立ち止まり、振り返る。



走り寄ってきたフランソワーズはジョーの前で立ち止まる。



「どうしたの?」
のんびりとした様子のジョーにかわまず、フランソワーズはジョーの胸に飛び込んだ。



「ど!どうしたの⁈」
動揺しているジョーの胸の中で、フランソワーズは小さな声を出す。



「もうどこにも行かないで…ずっと側にいて…」

ジョーはフランソワーズの小さな声を聞くと、そっと抱き締める。

「どこにも行かないよ…」

 


フランソワーズはジョーの胸から顔を上げる。

「ずっとキミの側にいるから」

フランソワーズの瞳からふわっと涙が溢れる。

ジョーは涙を指で優しく拭くと、静かにキスをした。

 



光のトンネルの中、抱き合う2人を、いつの間にかまわりに集まってきたギャラリーが拍手をする。



まわりに人が集まっていた事に全く気付いていなかった2人は、拍手の音で飛び上がらん位に驚き、真っ赤な顔して走り去る。
 

 


手は繋いだままで…。


〜おしまい〜

 

​2015.12.25~12.29

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