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海岸線に出ると、懐かしい景色が広がる。
少し離れた場所でタクシーを降りると、しばらく立ち止まり思い切り空気を吸う。
いつからかここに帰って来る理由が変わっていた。
最初の頃は辛さや、覚悟しかなかった。
久しぶりの景色も、変わらない姿で迎えてくれる。
ドアは鍵がかかっていた。
留守なのかな?
驚かそうと思っていた気持ちが少し沈む。
誰にも連絡せず、急に帰って来たのだから仕方ないかと合鍵を出し鍵を開ける。
家の中はしんと静まり返っていた。
誰もいないようだ。
リビングの扉を開けると、その光景に思わず笑う。
テレビは何かの映画を流していたらしいが、長いエンドロールの最中で、ソファーでは気持ち良さそうに寝息を立てているジョーがいた。
「映画、終わってますよ」
テレビを消してソファー前に座る。
あんまり気持ち良さそうだから起こすのはためらわれたが、何の連絡もなく帰って来たからどんなに驚くかとイタズラしたくなる。
ジョーの髪を優しく撫でながら、耳もとで囁く
「朝よ、起きて」
ゆっくりと上がった瞼。
まだぼんやりした目でこっちを見る
「え?」
ジョーはがばっとソファーから身体を起こす。
「ふ、フランソワーズ⁈え?どうしたの?何?まだ夢なの?」
大騒ぎ始めたジョーに、フランソワーズは思わず笑い出す。
「夢じゃないわよ!」
ジョーは深呼吸をする。
「脅かすなよ…帰ってくるなら連絡くれたら、迎えに行ったのに」
「あなたの驚いた顔が見たかったから内緒で帰って来ちゃった」
成功したと言わんばかりの満足そうなフランソワーズをジョーは抱きしめる。
突然抱きしめられて戸惑うフランソワーズにジョーは「おかえり」と言う。
その声とその温もりが欲しくてここに帰るようになったのはいつからだっただろう?などと少し考えてみたが、そんな事はもうどうでもいいかと、その温もりに甘えながら「ただいま」と返した。
2016.12.30