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illusion

 

 

 

 

 

 

 

迂闊だった。

 

ターゲットを深追いしていたら、ホワイトアウトに巻き込まれた。

 

 

ターゲットも見失い、吹雪の雪山に1人取り残された。

 

通信も通じない。

 

 

「さすがにヤバいかも…」

 

 

四方真っ白で何も見えない中、どこか吹雪をやり過ごす場所を探す。

 

 

その時、真っ白の中から急に現れたロッジ

 

「助かった!」

 

ドアを開けた瞬間言葉を失った。

 

 

「え?」

 

 

 

「ジョー!お帰りなさい!」

 

 

 

そこにいたのは「普段」のフランソワーズ

 

 

「どうして?」

 

彼女はベースキャンプで索敵中だ。

こんな所で、こんな笑顔で、こんな…普通にしている筈はない。

 

キツネにつままれるってこういう事?

 

いや、もう遭難して死んじゃったのか?

 

ジョーは思いっきり頬をつねる。

 

「痛っ!」

 

「何やってるの?ちょうどスープが出来たから、冷めないうちにどうぞ」

 

ロッジの中は暖炉があり暖かく

 

テーブルにはフランソワーズが作ったと思われるスープやサラダ、バケットまで…

 

バケット?

こんな山奥で?

 

 

お腹が空いていたのもあり、席に着きスープを飲む。

 

「美味しい」

 

「よかった、まだ沢山あるから」

 

テーブルの向かい側で満足そうな笑みを浮かべるフランソワーズ

 

いつもの彼女と何ら変わらない

 

でも…

 

ここにいる訳がない

 

これはきっと

 

幻覚だ!

暖かい食事の後には暖かいコーヒーが出てきた。

 

 

いつも着ている部屋着があり、ロッジなのにシャワールームがある。

 

そもそもこんな山奥のポツンと一軒しかないロッジに、電気、ガス、水道が通っている訳がない。

 

疑問に思いながらもシャワーを浴び、部屋着に着替える。

 

暖炉の前にフランソワーズがいる。

 

 

ジョーは暖炉の前のフランソワーズに聞く

 

 

「キミはいったい何者なんだ」

 

 

 

 

「?!」

 

ジョーは目を覚ます。

 

フランソワーズに質問していた筈なのに

 

「ここは?」

 

 

ベッドルーム?

 

 

隣には

 

「フランソワーズ…」

 

「あら、ジョー、起きたの?もう少し休んでいたらいいのに」

 

日常ではよくある光景なのだが…

 

ここは山奥、吹雪の中のロッジの筈。

 

ベッドから降り、カーテンを少し開ける。

 

外は変わらないホワイトアウト

 

「外の様子なんていいじゃない。もう少し休みましょう」

 

フランソワーズがジョーの後ろから抱きついた。

 

幻覚ではない感覚

 

それはフランソワーズそのもので…

 

 

頭の中の理性が一瞬で吹き飛んだ

あれからどれくらい経ったのだろう。

 

もうそんな事どうでもよくなった。

 

 

外は吹雪いたままだったが、ロッジの中では幸せな日々があった。

 

 

フランソワーズは毎日美味しい料理を作ってくれる。

自分の要望に全て応えてくれる。

 

それだけで…もういいじゃないか。

 

 

「ジョー…聞こえる?」

 

頭に直接語りかける感覚

懐かしい…

これを待っていたのでは?

 

 

目の前にいるフランソワーズは悲しそうな顔でジョーを見ている。

 

 

「どうやら捜索隊が近くに来たようだ」

 

「何故?あなたは行ってしまうの?」

 

「助けてくれてありがとう。でも、キミはニセモノだ。本物が近くまで探しに来てくれている」

 

「私は私よ!本物もニセモノもないのよ!

これは全てあなたの願望じゃない!あなたの作り出した世界じゃない!あなたがここから出たらこの世界は終わるのよ!

私も…消える…」

 

ジョーは目の前のフランソワーズを黙って見つめていた。

 

「フランソワーズ…ありがとう…キミがいたから命を繋げたよ。楽しかった」

 

ジョーはフランソワーズを抱きしめると、そっとキスをした。

 

「だめ!行ってはダメ!!!」

 

フランソワーズの悲鳴にも似た声を背に、ジョーは走り出す。

 

「フランソワーズ、ゴメン」

 

ロッジのドアを開けた。

 

急な勢いで吹雪が流れ込んだ。

 

真っ白

何も見えない

 

「ジョー!!!」

 

白い先から声がした。

次に目を覚ました時は、ドルフィンのメディカルルームだった。

 

「気がついたのね」

 

目を覚ましたジョーが見たものは

 

紅い服を着たフランソワーズ

 

「戻ってきたんだ…」

 

「大変だったわね、連絡も取れず心配していたんだから」

 

「僕と連絡取れなくなってから何ヶ月経ったの?」

 

ジョーの言葉にフランソワーズは目をパチクリしている。

 

「変なこと言った?」

 

「あ、ごめんなさい。半日なんだけど…」

 

半日…

 

もう何ヶ月もあそこにいた感覚だった。

 

 

「幻覚を見ていたんだ」

 

フランソワーズがベッドサイドの椅子に腰掛ける

 

「幻覚?」

 

「ロッジがあって、キミが暖かいスープを作って待っていてくれたよ。それから自分の中では数ヶ月、キミと一緒にいた…」

 

 

フランソワーズが息をつくと

 

「ベースキャンプの近隣の町の住人から話を聞いたの。あなたが救出された辺りは遭難事故が多発しているらしいの。あなたのように運よく助けられた人の話では、遭難しかけた時に一軒のロッジが現れて、そこには自分の願望があり、居心地がよく、このままここにいてもいいかとまで思うんですって。

捜索隊の声が聞こえたから、ロッジのドアを開けたら、何も無くなったそうよ。

 

あのまま現実に戻れない人が命を落すのね…」

 

 

「キミの声が…キミの声が頭の中から聞こえて来なかったら、あのままあの世界に留まっていただろうな…」

 

キミの温もりも全てが嘘偽りなかったのだから。

 

たとえ僕が作り出した幻覚でも…

 

 

「幽霊?脳を操れる何か?それとも不定形生物なのかしら?」

 

 

真実を知りたがるフランソワーズ。

 

「もう真相なんていいじゃない、こうやって戻ってこれたんだから」

 

ジョーの言葉に少し不服そうだった。

 

「幻覚でのキミはとても優しかったし…」

 

ジョーがニヤリとする

 

「とってもヤラしかった」

 

「な!」

 

フランソワーズが真っ赤になる

 

「何を言っているのよ!!!」

 

フランソワーズは横になっているジョーをバシバシ叩く

 

 

「痛てっ!幻覚のキミはそんな暴力を振るいませんでした!痛てっ!やめろって!」

 

「これが私なの!ホントウの私よ!もう!もう少し休んでそんな幻覚忘れてしまいなさいよ!」

 

フランソワーズが怒りながらメディカルルームを後にする。

 

ジョーはクスッと笑うと再び目を閉じた。

 

 

おしまい

2018.12.25〜2019.2.3

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