
illusion
1
迂闊だった。
ターゲットを深追いしていたら、ホワイトアウトに巻き込まれた。
ターゲットも見失い、吹雪の雪山に1人取り残された。
通信も通じない。
「さすがにヤバいかも…」
四方真っ白で何も見えない中、どこか吹雪をやり過ごす場所を探す。
その時、真っ白の中から急に現れたロッジ
「助かった!」
ドアを開けた瞬間言葉を失った。
「え?」
「ジョー!お帰りなさい!」
そこにいたのは「普段」のフランソワーズ
「どうして?」
彼女はベースキャンプで索敵中だ。
こんな所で、こんな笑顔で、こんな…普通にしている筈はない。
キツネにつままれるってこういう事?
いや、もう遭難して死んじゃったのか?
ジョーは思いっきり頬をつねる。
「痛っ!」
「何やってるの?ちょうどスープが出来たから、冷めないうちにどうぞ」
ロッジの中は暖炉があり暖かく
テーブルにはフランソワーズが作ったと思われるスープやサラダ、バケットまで…
バケット?
こんな山奥で?
お腹が空いていたのもあり、席に着きスープを飲む。
「美味しい」
「よかった、まだ沢山あるから」
テーブルの向かい側で満足そうな笑みを浮かべるフランソワーズ
いつもの彼女と何ら変わらない
でも…
ここにいる訳がない
これはきっと
幻覚だ!
2
暖かい食事の後には暖かいコーヒーが出てきた。
いつも着ている部屋着があり、ロッジなのにシャワールームがある。
そもそもこんな山奥のポツンと一軒しかないロッジに、電気、ガス、水道が通っている訳がない。
疑問に思いながらもシャワーを浴び、部屋着に着替える。
暖炉の前にフランソワーズがいる。
ジョーは暖炉の前のフランソワーズに聞く
「キミはいったい何者なんだ」
「?!」
ジョーは目を覚ます。
フランソワーズに質問していた筈なのに
「ここは?」
ベッドルーム?
隣には
「フランソワーズ…」
「あら、ジョー、起きたの?もう少し休んでいたらいいのに」
日常ではよくある光景なのだが…
ここは山奥、吹雪の中のロッジの筈。
ベッドから降り、カーテンを少し開ける。
外は変わらないホワイトアウト
「外の様子なんていいじゃない。もう少し休みましょう」
フランソワーズがジョーの後ろから抱きついた。
幻覚ではない感覚
それはフランソワーズそのもので…
頭の中の理性が一瞬で吹き飛んだ
3
あれからどれくらい経ったのだろう。
もうそんな事どうでもよくなった。
外は吹雪いたままだったが、ロッジの中では幸せな日々があった。
フランソワーズは毎日美味しい料理を作ってくれる。
自分の要望に全て応えてくれる。
それだけで…もういいじゃないか。
「ジョー…聞こえる?」
頭に直接語りかける感覚
懐かしい…
これを待っていたのでは?
目の前にいるフランソワーズは悲しそうな顔でジョーを見ている。
「どうやら捜索隊が近くに来たようだ」
「何故?あなたは行ってしまうの?」
「助けてくれてありがとう。でも、キミはニセモノだ。本物が近くまで探しに来てくれている」
「私は私よ!本物もニセモノもないのよ!
これは全てあなたの願望じゃない!あなたの作り出した世界じゃない!あなたがここから出たらこの世界は終わるのよ!
私も…消える…」
ジョーは目の前のフランソワーズを黙って見つめていた。
「フランソワーズ…ありがとう…キミがいたから命を繋げたよ。楽しかった」
ジョーはフランソワーズを抱きしめると、そっとキスをした。
「だめ!行ってはダメ!!!」
フランソワーズの悲鳴にも似た声を背に、ジョーは走り出す。
「フランソワーズ、ゴメン」
ロッジのドアを開けた。
急な勢いで吹雪が流れ込んだ。
真っ白
何も見えない
「ジョー!!!」
白い先から声がした。
4
次に目を覚ました時は、ドルフィンのメディカルルームだった。
「気がついたのね」
目を覚ましたジョーが見たものは
紅い服を着たフランソワーズ
「戻ってきたんだ…」
「大変だったわね、連絡も取れず心配していたんだから」
「僕と連絡取れなくなってから何ヶ月経ったの?」
ジョーの言葉にフランソワーズは目をパチクリしている。
「変なこと言った?」
「あ、ごめんなさい。半日なんだけど…」
半日…
もう何ヶ月もあそこにいた感覚だった。
「幻覚を見ていたんだ」
フランソワーズがベッドサイドの椅子に腰掛ける
「幻覚?」
「ロッジがあって、キミが暖かいスープを作って待っていてくれたよ。それから自分の中では数ヶ月、キミと一緒にいた…」
フランソワーズが息をつくと
「ベースキャンプの近隣の町の住人から話を聞いたの。あなたが救出された辺りは遭難事故が多発しているらしいの。あなたのように運よく助けられた人の話では、遭難しかけた時に一軒のロッジが現れて、そこには自分の願望があり、居心地がよく、このままここにいてもいいかとまで思うんですって。
捜索隊の声が聞こえたから、ロッジのドアを開けたら、何も無くなったそうよ。
あのまま現実に戻れない人が命を落すのね…」
「キミの声が…キミの声が頭の中から聞こえて来なかったら、あのままあの世界に留まっていただろうな…」
キミの温もりも全てが嘘偽りなかったのだから。
たとえ僕が作り出した幻覚でも…
「幽霊?脳を操れる何か?それとも不定形生物なのかしら?」
真実を知りたがるフランソワーズ。
「もう真相なんていいじゃない、こうやって戻ってこれたんだから」
ジョーの言葉に少し不服そうだった。
「幻覚でのキミはとても優しかったし…」
ジョーがニヤリとする
「とってもヤラしかった」
「な!」
フランソワーズが真っ赤になる
「何を言っているのよ!!!」
フランソワーズは横になっているジョーをバシバシ叩く
「痛てっ!幻覚のキミはそんな暴力を振るいませんでした!痛てっ!やめろって!」
「これが私なの!ホントウの私よ!もう!もう少し休んでそんな幻覚忘れてしまいなさいよ!」
フランソワーズが怒りながらメディカルルームを後にする。
ジョーはクスッと笑うと再び目を閉じた。
おしまい
2018.12.25〜2019.2.3