
invade
侵略 1
とある港
真夜中近く。
「ホントにこの辺で間違いないんだろうな?」
ジェットが助手席のフランソワーズに問う。
フランソワーズはダブレット端末を操作しながら
「間違いないわ、ピュンマが計算した場所と一致する」
「でもよぉ、いつもの景色と何ら変わらねぇ」
ジェットは退屈そうに腕を後ろに組む。
「来たわっ!」
フランソワーズの声を合図に、ジェットが車から降り、走り出す。
「フランソワーズ!位置情報!」
「今送るわ」
フランソワーズも助手席のドアを開け、勢いよく飛び出す。
何もなかった地面が盛り上がり、裂ける。
裂け目から這い上がるように、人間が出てきた。
ジェットがスーパーガンを放つ。
出てきた人間は消える。
次々と地面が裂け、人間が這い上がる。
「ちっ、どれだけいやがるんだ!」
ジェットは、裂け目から這い上がってきた人間達に囲まれる。
フランソワーズも銃で援護する。
フランソワーズの真後ろの地面が裂け、這い上がってきた人間は、フランソワーズに襲いかかる。
「きゃっ!」
引きずり込まれそうになったフランソワーズが、一瞬で消える。
再び姿を現したのは、襲われかけた場所から少し離れた所。
「ジョー」
ジョーが襲われかけたフランソワーズを瞬時に助ける。
「危なかったね」
壊れ物を守るかのように抱きしめていた腕を緩める。
「ジェット!あの裂け目に引きずり込まれると、異空間に連れて行かれるぞ!気をつけろ!」
「おぅ!やっと来たか」
「フランソワーズ、位置情報を送って!」
「わかったわ」
ジョーの加戦でこの「エリア」の「異常」は消滅した。
「ったく、何なんだこれは」
「かなりペースが上がって来てるな…急がないと大変な事になる」
先ほどまでの激しい戦闘が嘘の様に、あたりは静まり返っている。
「消滅したわ、これから戻ります」
フランソワーズは銃をホルスターにしまうと、ピュンマとの交信を終え、ジョーとジェットの元へ向かう。
侵略 2
話の始まりは、1カ月前に起きたニューヨークスラム街の大量殺人事件だった。
バラバラの遺体が大量に見つかり、通常の人間には到底不可能な事件に、只ならぬ緊張感が襲っていた。
ニューヨークで独自にその事件を調べていたジェットは、ひとつの疑惑を確かめる為、ギルモア邸に戻った。
その後アメリカ郊外でも同じ様な事件が起こり、ジェロニモが引き続き調査を始めた。
同時期にイギリス、ドイツでも同じような大量殺人事件が発生する。
グレートとアルベルトも動き出す。
メンバーのいない国や地域でも続々と大量殺人事件が発生し、世界を恐怖に陥れようとしているかのようだった。
日本はまだ大量殺人事件の発生はなかったが、時間の問題だと、ピュンマが研究所のコンピュータを駆使して、発生しそうな場所を計算していた。
そしてこの連続する大量殺人事件が、未来人の「侵略」という事も、ジェットや他のメンバーの情報から確信していた。
「ニューヨークでもイギリスでもドイツでも…大量殺人事件が起こる前に同じ動きがあるんだ」
ピュンマが各事件があった現場モニターから、ある共通点を探し出す。
「時空の歪み…って言ったらいいのかな?弱いけれど確かにどの場所でも感じられる」
「未来人は過去へ飛んだはずじゃ?」
ジョーがピュンマに問う。
「多分…過去に行く途中何らかのトラブルがあり、一度『出る』事が出来た今…現代に戻ってきた。行き場を失った未来人達は、現代人に『憑依』する事で、この時代に生きようと考えた…でもその『憑依』はとても危険な事で、上手く行かなければ、現代人も未来人も身体がバラバラになってしまう…それが大量殺人事件となるわけだ」
「ピュンマすごいね、そこまで調べ上げたんだ」
ジョーが感心すると、ピュンマは照れ笑いを浮かべ
「イワンだよ、そんなんわかるわけないじゃん」
と頭をかいた。
侵略 3
日本にも怪しい時空の歪みが発生してきて、ジェットとフランソワーズが調査に出ていた矢先の事件だった。
翌日、ギルモア邸に戻った3人と、イワン、ピュンマ、ギルモア博士が、研究所の会議室に集まった。
会議室には最初高級な円卓が置かれていたが、ジェットとグレートが喧嘩をし、派手に壊されてから、博士は一般企業にあるような会議テーブルを買い直した。
簡単な作りのテーブルだが、円卓で、コズミ博士も加われるように10個椅子が並んでいる。
フランソワーズはイワンを抱っこしたまま腰掛ける。
隣に博士
対角線上にジョー、ピュンマ、ジェットと並ぶ。
「ガンを撃つと消えるのは何だ?」
ジェットが今体験してきた事の疑問をピュンマに聞く。
「何らかの衝撃で異空間に戻ってしまうんじゃないのかな?」
ピュンマも断言出来ない…と言ったような顔をしている。
「戻った者はまた侵略しに此処に来る…そんな事を繰り返していたらキリがない…何とかしないと」
ジョーが手を組んで息を吐く。
「交渉…しかないだろう」
フランソワーズに抱かれたイワンが口を開く。
「交渉?相手は異空間にいるんだ。どうやってやるんだ?」
ジェットがイワンに噛み付く。
「向こうに行って交渉するしかない…ジョー、キミに行ってもらいたい」
「司令官と話し合え…って言うんだね?」
ジョーが察した。
「私も行くわ」
フランソワーズが声を出す。
「危険だよ…キミは異空間の渦に巻き込まれた事がないじゃないか…」
ジョーが制止する。
「いや、フランソワーズにも行ってもらわないとならない。此処と向こうを繋ぐ為に」
イワンがジョーに言うと、フランソワーズは静かに頷く。
「大丈夫よ、私も一緒に行くわ」
「こっちはジェットと…アルベルトが向かっているから2人で、ピュンマと僕はフランソワーズとの交信を担当するから」
イワンの言葉に一同頷く。
「僕とピュンマは明日の準備をこれからしなければならない。ジェットは他の地域の監視を続けて欲しい。ジョーとフランソワーズは早く休んだ方がいい」
「わかりましたよ」
ジェットが持ち場に着くため席を立つ。
「じゃあ先に休ませてもらうよ」
ジョーはフランソワーズを促す。
「じゃあ後はお願いね」
フランソワーズはイワンをゆりかごに寝かす。
ゆりかごに入ったイワンは、ふわふわと宙に浮き、ピュンマの近くで停止する。
「じゃイワン、やろうか。」
「時間がない、早くやろう」
博士は一同のやり取りを黙って眺めていたが、皆が動き出したので、自分も席を立つ。
「皆、慎重にな」
博士の言葉に一同は再び頷いた。
優しい夜
「あれ?」
部屋に戻ったジョーは、ベッドの隅に座っているフランソワーズに気づく。
「今日は来ないかと思った」
フランソワーズは俯いて
「…眠れなくて」と小さな声で呟いた。
「大丈夫?」
ジョーは風呂上がりの濡れた髪をバスタオルでゴシゴシ擦りながら、フランソワーズの隣に座る。
「無理なら僕1人で何とかするよ」
「そういう訳にはいかないわ、私が向こうに行かなきゃピュンマとイワンとの通信はどうするの?司令官の居場所だって探さなければいけないわ…それに」
「それに?」
「司令官が…その、私達の子孫と言うのなら、私にも責任があるような気がして…」
ジョーはふっと笑う。
「キミらしいや」
「私達が交渉して、この時代を守らなければ…侵略なんて…許される事じゃないわ」
「そうだね、恐らく僕らがキーマンなんだよ、司令官との繋がりや、この時代に拘る理由も…」
「責任がある…って事よね?」
「キミが将来僕の子供を産んでくれるんだろ?じゃあ責任があるな」
「もう、茶化さないで」
フランソワーズは赤くなる。
「もう寝ようか…明日は盛大に疲れるだろうから」
ジョーがベッドに横になる
「一緒に寝てもいいの?」
「一緒に寝ちゃ悪い理由がない」
フランソワーズが横になると、ジョーはフランソワーズを優しく抱きしめる。
ジョーはフランソワーズの耳元に唇を寄せる。
「おやすみ」
耳にキスを一回。
フランソワーズはジョーの胸に顔を埋め目を閉じた。
交渉 1
「先祖が子孫を説得に行く…って訳か」
アルベルトが改めてつぶやく。
「しかし自分達からあの時空の渦に入ろうってんだからあいつら勇気あるよな」
ジェットが感心する。
「そうだね、時空の渦の気持ち悪さはもう沢山だ」
パソコンを操作しながら淡々とピュンマがつぶやく。
「フランソワーズ、用意はいいかい?」
「ええ」
フランソワーズはピュンマと交信する。
「黙っていても向こうから『入り口』を開けてくれるんじゃないの?」
ジョーがフランソワーズに聞く。
「それに入ってしまうと私たち時空の渦に巻き込まれてしまうらしいの。ピュンマの計算とイワンの能力で『此処』と『向こう』のトンネルを作るらしいのね」
「へぇ、便利なもんだ。…とにかくイワンが眠る前に解決してしまわないとね」
「ジョー、口開けて」
「?」
フランソワーズに言われ、疑問に思いながらジョーが口を開ける。
何かを口に入れた。
「酔い止めよ」
「効くのかな?」
「何もないよりいいでしょ?」
ジョーはにっこり笑うと、フランソワーズの手を握る。
「じゃあ僕らの『子孫』に逢いに行きますか」
フランソワーズはジョーの目を見つめ、黙って頷いた。
交渉 2
身動きが取れないほどの不快感。
これを避けたいから侵略する理由もわからない事はないな、と、ジョーは共感してしまう。
少し離れた所にフランソワーズが倒れている。
暫く行動出来そうもない。
でもここにいたら目立ってしまう。
這いながらフランソワーズの元に向かう。
「…大丈夫?」
ジョーはフランソワーズを抱き起こす。
意識はあるようだが、肩で息をして苦しそうだ。
ジョーを見るが言葉が出ないようだ。
「ここにいては目立ってしまう、隠れよう」
ジョーはようやく立ち上がり、フランソワーズを抱きながら、柱の影に移動する。
2人崩れ落ちるように柱の影に収まった。
無言のまま、ジョーはフランソワーズの背中をさする。
しばらくじっとしていたフランソワーズだったが、ジョーの足に手を置くと
「ありがとう…もういいわ」と告げる。
ジョー自身まだ気持ち悪く動きたくない心境だったが、
フランソワーズは眼を閉じると、何かを探し始めた。
「まだもう少し休んだ方が…」ジョーが言いかけると
「時間がないの、イワンが眠ってしまったら、私達戻れなくなるのよ、司令官を探さないと」
ジョーはフランソワーズの邪魔にならないように静かに様子を見守った。
交渉 3
「いたわっ!!」
そう言うとフランソワーズは走り出す。
「待てよ!!危ないだろ!!」
時間がないとはいえ、身を隠さなければならない立場であることを忘れているかのように、フランソワーズは走っている。
彼女の目にはきっと『子孫』である司令官が見えたのだろう。
直接交渉しても話がわかる相手なのだろうか?
そして
自分達の存在は司令官のやり方をよしと思わない連中には格好の『人質』なのではないか?
ジョーは慌ててフランソワーズの後を追う。
「あったわ」
フランソワーズが立ち止まった場所には大きな扉
力なくしても難なく扉が開かれる。
手に銃を持ちながら慎重に歩く。
「これは?」
目の前に乗り物がある。
卵型のそれはくすんだ色をしている。
「タイム…マシン?」
時空を超えたのだろうか?まだ試験段階なのだろうか
未来人の科学の進歩に立ち止まる。
「ようこそ、ご先祖様」
誰もいないと思った奥の方に明かりが灯る。
「久しぶりだな」
ジョーは顔色ひとつ変えず呟く
「要件は理解している。自分達の時代を荒らさないで欲しい…って言うんだろう?」
司令官はサングラスで目を隠している。
表情は読み取れない。
「過去に飛んだはずじゃないか、なぜ僕らの時代を荒らす?」
「過去にも居場所なんてなかった。あの時、ご先祖様達に出会えたことで、一番出やすく、そして侵略しやすい時代となった。我々が侵略することで、間違った過去の記憶を一掃して、破壊されていない未来を作るのだ」
「今の時代の人たちを皆抹殺してか?」
「そうだ」
「そんな事をしてどうなる?」
「自分達の時代だから騒ぐんだ、じゃあ過去なら良かったのか?」
司令官の言葉にジョーは言葉を失くす。
「私たちは今の時代しか知らないわ、過去も未来も行くことができない。この時空の狭間だって、あなたたちが滞在しているから来れたまでよ」
フランソワーズが口を開く。
「うるさい!!このままどこの時代にも生きることができない俺たちの気持ちがわかるか!!」
「わかるもんか、今すぐ自分の時代に帰ってもらおう。もう僕らの時代を荒らすのはやめてくれ、」
「嫌だ」
「そんな事をしていても、未来人と現代人の争いとなり、未来がもっと深刻になるじゃないか。」
『フランソワーズ、時間がない』
ピュンマの声が頭に響いた。
『とりあえず司令官を連れて帰ってきてくれ』
ピュンマの指示にフランソワーズはジョーを見る。
ジョーは司令官の手を掴む。
部屋の真ん中に渦が出現した。
イワンが作った『トンネル』
ジョーが司令官を『トンネル』に引きずり込もうとした瞬間、すごい勢いで司令官がジョーを突き飛ばす。
「?!」
ジョーは渦に飲み込まれる。
そして渦は消えた。
別離 1
一瞬何が起こったのかわからなかった。
気がついたら現代のギルモア邸の前だった。
ピュンマが走り寄ってきた
「ジョー、大丈夫か?」
「い、一体何が?」
ジョーは辺りを見回した。
「フランソワーズは?」
ピュンマの顔が曇る
「向こうに取り残された」
「え???」
ジョーは絶句した。
「イワンが眠ってしまったんだ、次に『トンネル』を作れるのは15日後になる。」
「そ…そんな事って、あと何か方法は?」
「…ない」
「チクショウ!!」
ジョーは目の前の砂を蹴った。
体がまだ回復していなくて、そのまま倒れこむ。
「とりあえずメディカルルームへ行こう」
ピュンマがジョーに肩を貸す。
メディカルルームには博士や他のメンバーがいた。
「博士!!僕の体なんてどうでもいいから、フランソワーズを早く!!侵略者の渦に入れば向こうの世界に行けるんだろ?」
いつもの温厚な彼からは想像もできない苛立ちに、博士もどう言葉をかけていいかわからない。
アルベルトが
「落ち着け、策はきっとある、とりあえずお前が回復しない事にはフランソワーズは助からない」
と、悟す。
みんなでジョーを押さえ込み、ベッドに寝かす。
興奮状態なので、博士は睡眠薬を入れる。
眠ったジョーの回りで皆顔を揃える。
「15日間、連絡すら取れないのかよ」
ジェットが誰に言うわけでもなく言葉を吐く。
「イワンがいないとね、通信も多分できないと思う」
ピュンマが淡々と語る
「司令官がこっちに来るってことはないのかね?」
アルベルトが問う。
「連れて来ようとしてこうなったんだ、向こうからわざわざ出向いて来るとは考え難い」
ピュンマが降参と言わんばかりに手をあげる。
「だいたい始めっから言葉で説得なんて無理な話だったんだよ」
ジェットに続き
「今更言ったってしょうがないだろ?フランソワーズをどうやって救い出すかが先決だろ?」
アルベルトが畳み込む。
「目的が変わっちゃったけど」
ピュンマがパソコンのキーを打ち始める。
「フランソワーズの方でなんとかしてくれたら…可能性はゼロではない」
「フランソワーズに託すしかないのか」
「そうなるね、僕たちにできることは…」
「「出来る事は?」」
「フランソワーズがいない間のジョーの世話ってところかな?」
緊迫感なくピュンマが笑う。
つられて笑う者はいなかった。
別離 2
「私をどうするつもりなのかしら?」
手錠をかけられ連行される途中、フランソワーズは未来人に聞く
「黙っていてください」
「手錠なんてかけたって私はどこにも行けないのに、司令官さんはそんなに私が怖いのかしら?」
未来人がフランソワーズを見る
フランソワーズはにっこりと笑う。
こんな状況なのに、泣き叫ぶわけでもなく、笑っている。
未来人はフーッと息を吐く
「あなたを人質にとっておけば、我々の侵略を邪魔できない」
「私たちの仲間が…って事ね」
「まぁ、そうです」
「司令官とお話したいわ」
「今はダメです。司令官はお忙しい」
「あなたは…司令官のやり方に賛成なの?」
前を歩いていた未来人が立ち止まる。
「賛成も何も…」
未来人は振り返る
「そうしなければ自分達はどの世界でも生きられない」
フランソワーズはハッとする。
「でも…あなたたちがやっている事は正しい事ではないわ、何か…解決策が…」
「そんな、平和的な解決など既にない事くらいあなただってわかっているはず!!」
未来人は声を荒げるが、フランソワーズは動じない。
「探すのよ、きっとあるわ」
未来人はフランソワーズの手錠を外す
「?」
「こんなもの意味ないって言ったのは貴女だ。なぜそんなに前向きなんだ?」
「未来を信じているから」
「未来?こうして未来人が警告しているのにわからないのか?」
「未来はきっと変えられるから」
「どうして…」
何を言っても変わらないフランソワーズの態度に、未来人は絶句する。
「だから司令官と話がしたいの、ね、お願い」
フランソワーズは未来人の手を握る。
暖かい手の温もりと、彼女の笑顔。
未来人は戸惑った。
行動1
「ご先祖様、ここの居心地はどうですか?」
『子孫』の司令官をフランソワーズは睨みつける。
「私を人質にしても意味はないわ、私1人くらい居なくなったって、なんの影響もないわ」
「ご先祖様は何にもわかっていないようですね、それはそうだ、未来を知らないから」
「未来は変えられるわ、私達を信じて未来で待っていてくれないかしら?きっと貴方達が暮らしやすい未来を作るから」
「じゃあ、ご先祖様の力で、戦争を止める事が出来るのかな?」
フランソワーズは返す言葉を失った。
未来は変えられる。
無理なのはわかっている。
戦いも止まらない。
それもわかっている。
でも…。
未来に希望を持ちたかった。
未来にいた自分の…いや、自分と彼との「子孫」の存在に。
目の前にいる司令官とは決して会うことはなかった。
あえるわけもなかった。
それが今の目の前にいる。
きっと出逢うべく出逢ったのだから。
「お願い、私達を信じて!今、貴方達がしているのは侵略よ、これを続けても未来はきっと変わらない。むしろ悪くなるばかりだわ、
貴方達との出会いは、きっと私達の時代への警鐘なの。まだ間に合うわ。貴方の時代を、未来を変えていくから」
「我々にはもう全て『起こっている』事実なのだ!そんな夢物語など信じるものか!」
司令官はそう言い残し、立ち去った。
フランソワーズは黙って司令官の後ろ姿を見ていた。
行動2
「ほんっとに!あなたのボスは頑固な分からず屋ね!」
フランソワーズの言葉に、そばにいた未来人は何を言っているんだ?と言わんばかりの顔をする。
「頑固で、一度決めたら誰がなんと言おうと曲げない…ソックリだわ!」
「誰に?」
未来人の男が思わず質問する。
フランソワーズはクスッと笑うと
「『ご先祖様』よ!」と言った。
イワンは起きる気配もなく、日にちばかりが過ぎていく。
イワンが再び目を覚ました時にすぐ行動出来るようにと、ピュンマは寝る間を惜しんで作業を続けていた。
他の者はポイントの見回り程度しかやる事がなかった。
ジョーは海岸沿いを歩く。
自分の無力さを感じていた。
こうしている間にも彼女は危険に晒されている。
もし、今ここに時空の歪みが現れたら、躊躇わず飛び込んで行くのに。
あれ以来何も現れない。
こっちの動きを読まれているとピュンマが言っていた。
だからこそ、イワンが目を覚ました時が勝負だと。
わかってはいる。
でも
今すぐにでも
助けに行きたい。
気持ちだけが焦っていた。
行動3
異空間にも夜は来る。
朝、昼、夜今がいつなのかはわからないが、食事を持って来るタイミングで言えば今は夜なんだろう。
あれから何日経ったのかも、この何もない空間ではどうでもよくなっていた。
きっとイワンが目を覚ませば、前のようにトンネルを作ってくれる。
そう思うと希望が持てた。
そして自分は「人質」
その上ここの司令官の「先祖」だから、司令官だって自分の存在を消すような事はしないだろう。
フランソワーズの危険は司令官の危険でもあるのだから。
眠くなって来たから、きっと夜遅いのかもしれない。
お日様が見れなくても、体内時計はきちんと一日を教えてくれる。
フランソワーズは牢の中で横になる。
うとうとしかけた時に、誰かが牢をコンコンと叩いた。
「誰?」
見ると先ほどまで見張りについていた未来人の男がいた。
「大きな声を出さないでください」
見張りは交代したはずでは?
「今そこから出しますから、話は移動しながら」
見張りについているもう一人の未来人は黙ってその様子を見ている。
「一体、何が?」
「さ、早く」
見張りの未来人と、一緒にいた未来人に誘導される。
「あなたたちは一体?」
「司令官の考えに反対している者たちです。秘密裏に計画を進めていました。そして今夜その計画を実行するのです」
「計画?」
「レジスタンスです」
「レジスタンス…」
「僕たちがここを制圧し、未来へ帰ります。そのどさくさにあなたもあなたの世界へ戻ってください」
「どうやって?」
「タイムマシンです。治しておきました。時代はセットできるのですが、場所までの特定はできません。だから…」
「だから?」
「強く願ってください。あなたの帰るべき場所を」
「帰るべき…場所」
「僕たちがあなたを逃がすのに一つだけ条件があるのですが」
「え?」
「あなたが司令官に言っていた言葉、未来のためにあなたたちが出来る事を実行してもらいたい。そうすれば僕たちも前よりは住みやすい未来になっているはずだから」
「私たちの力だけでは、世界までは…」
「あなたが言ったんじゃないですか!きっと変えてみせるって!忘れないで欲しいのです。あなたが見た未来を、そしてご先祖様たちが変えようと努力をしてくれたら、きっと僕らはこのような無謀は行動には出なくなる。」
「そうね、やってみるわ、あなたたちの事も忘れない」
「忘れないでください、あなたの言葉に、僕たちは背中を押されたのですから」
「成功を祈ります」
フランソワーズは未来人の頬にキスをした。
帰還 1
もうすぐイワンが目を覚ます。
そして何事もなく、また夜が明ける。
ジョーは誰もいない海岸を歩いていた。
見張りの担当ではないが、歩かずにはいられなかった。
あれ以来時空の歪みも無くなった。
フランソワーズがいない以外は普通の日々が戻って来た。
フランソワーズがいないだけでジョーにとっては普通ではない日々だった。
苛立ちをぶつける事もなく、ただ黙々と自分の「出来る事」をやっていた。
「出来る事」と言ったら歪みのポイントの監視くらいだった。
でも、歪みが出たら飛び込むつもりではいた。
早く助けてあげたい。
ただそれだけだった。
夜が明けて来たその時
空が「歪んだ」
「!!」
ジョーは海に飛び込んだ。
歪みの方向にクロールで向かう。
渦はだんだん大きくなり、中心から何かが出て来た。
その何かはバシャンと大きな音を立て、海に「落ちた」
ジョーはその落ちた物に見覚えがあった。
それを押して海岸に戻る。
服のまま海に飛び込みびしょびしょのジョーだが、自分の事など構わず、その「落ちて来た」物についている「ドア」を開けた。
「フランソワーズ!!」
ジョーの声にその中にいたフランソワーズが目を開けた。
「ジョー?本当にジョーなの?」
ジョーはフランソワーズを乗り物から出すと、強く抱きしめた。
「よく帰ってこれたね、おかえり」
フランソワーズがビクッとして、ジョーは自分がびしょ濡れだった事に気付く
「あ、ごめん、あの渦に入ろうと夢中で泳いでた」
「ありがとう…」
フランソワーズはそういうと気を失った。
帰還 2
目を覚ますと、そこはいつも見慣れた自分の部屋だった。
「気がついた?」
声をかけるジョーはとても優しい。
「よかった…帰って来たのね」
「あのタイムマシン、故障していなかったんだ、どうやって乗って帰って来たの?」
「レジスタンス」
「レジスタンス?」
「司令官の『ここ』の侵略をよく思っていない人たちが反乱を起こしたの、自分たちのいた未来に戻るために。司令官のやり方はあまりにもリスクが多すぎたから」
「そうだね、たくさんの人が犠牲になっている」
「私たちのように『先祖』と分からず侵略で犠牲になっている現代人もいて、それと同時に『子孫』が消えていく」
「反乱を起こす人たちが、騒ぎのどさくさに逃げるようにタイムマシンに乗せてくれたの、それで帰ってこれたの」
「よかった…あのタイムマシン、博士とイワンが調べるんだって研究室に持ち込んだようだよ」
「イワン、目が覚めたの?」
「キミが帰って来てまもなく」
「タイムマシンは、この時代って設定はできるけれど、場所まで指定はできなかったの、逃がしてくれた未来人が強く願ってと言っていたから」
ジョーが興味深く覗き込む。
「あなたを想ったわ」
「え?」
ジョーが急に真っ赤になる
「どうしたの?」
「あ、なんだか、照れ臭いっていうか…」
「そうしたらちゃんとあなたの目の前に帰ってこれた」
「どう…想った?」
「私がいない間、あなたはどうしているのかしら?って」
「どうもこうも…キミを助けるためにだね、色々準備とかなんとか…」
ジョーはちらりとフランソワーズを見る
「ありがとう」
フランソワーズがにっこり笑う。
「いや、何もしていないから」
「そういえば、逃がしてくれた未来人から、宿題預かったの」
「宿題?」
「この事を忘れないで欲しいって、私たちで出来る事をやって欲しいって、それが未来を変える事になるからって」
「出来る事…かぁ、大変な宿題だね」
「そうね、でも少しづつでもやっていかなければいけないわね」
「戻ったのかな?未来へ」
「分からない、反乱が成功したのかすら、でも、彼らなら成し遂げたはず」
「僕らの『子孫』が失脚するんだろ?何とも複雑な」
「司令官、あなたにそっくりだったわ」
「それ、どういうこと?」
「言わない!!」
思い出し笑いをするフランソワーズに、何笑っているんだ?と口を尖らせるジョー。
フランソワーズは未来の人たちのためにも、一日一日を大切に生きようと思っていた。
それが未来に繫がるのなら…
END
2017.9.3〜2018.1.15