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量産

1

 

 

 

 

 



パーカーにジーンズ、スニーカーにバックパックの青年を見て、船頭は言う。

「お前さん、本当にあの島に行くのかい?」

 


青年はニコっと笑い

「はい、大学の研究でどうしても調べたい植物があの島に自生していると教授から聞いたもので」



「あの島はもう何十年も無人島だ。
…噂ではよ、おっかねぇ人食い猛獣がいるとかで、島に入った者は誰一人として帰って来なかったそうだ」



「そうですか…気をつけなきゃいけませんね」



何を言ってもニコニコしている青年に、船頭も呆れ顔で
「何が起こっても俺は責任とらねぇぞ」
と呟く。

「あ、見えて来ましたね、あの島だ」
怖がりもせずワクワクしている風な青年を横目に、船を島に近づける。



「今の若いモンは怖がりもしねぇ、命を粗末にするんじゃねぇ」



青年は腕時計を見ると
「…そうだな、明日のこの時間にまたここに来てくれますか?ボクがここにいなければ帰ってもらって結構ですから」
そう告げると、お金を渡す。

「気をつけろよ」

「ありがとうございます」



どこにでもいる都会の若者がこの無人島で1日過ごせるのか?


船頭は青年の後ろ姿が見えなくなるまでその場から動かなかった。



やがて姿が消えると、諦めたように船を出す。
 

船が見えなくなると、適当な岩かげを見つけ、バックパックから服を出す。

着替え終え、最後に銃をホルスターにしまう。



島の地図を広げる。



「この森の先に洞窟があるようだ」
コンパスで位置を確認し、バックパックを岩かげに隠し、歩き出す。



森の中は無人島らしく荒れ果てている。
獣道を慎重に歩く。


「何も変わった事はないようだが…」



森を抜けた先に洞窟のようなものがあった。
入り口に巨大な猛獣がいるのが見えた。



「これは多分」
銃で猛獣を撃つ。
簡単に倒れる。

 


「やっぱりただのロボットだ、脅かして洞窟の中に入れないようにしているだけだから、武器もない。まさか攻撃してくる者がいるとは思ってなかったんだろう」
誰も聞いてはいないが、大きな独り言を言う。


洞窟の中に入る。
靴音だけが洞窟内に響き渡る。

明らかに人の手が加えられた整備された道と規則正しく設置されているライトはLED

かなり重厚なドアがある。
「ここが玄関か…」



パスワードか指紋承認かとにかく簡単には開かないようだ。




持ってきた小型爆弾をしかける

「ボンっ」という破壊音と共に、重い扉が前に倒れた。




「何かの基地のようだな…」



廊下の突き当たりに大きな扉がある。
これも「普通」には開かないようだ。

再び爆弾を仕掛け、壊された扉の先にいた「者」に、ジョーは思わず叫ぶ。




ええええ〜⁈

 

 



 

 

中にいた「者」達が大量に追いかけてきた。



ジョーは加速装置を使うのも忘れるくらい動揺していた。


全速力で走る。



「何故?どうして?どうなっているんだ?」
もうパニック状態だった。


廊下の脇に人1人分隠れるスペースを見つけたので入り込む。



「ハアハア…」
全速力で走ったので肩で息をする。



「これは…一体何なんだ⁈」
 


ジョーはとても恐ろしい者を見た。


心臓がドキドキしている。

こんな事って…。



ジョーを襲ってきた者達は、みなフランソワーズだったのだ。

クローン?



そうだ、クローンだ。
何処かでフランソワーズの細胞を入手したのだ。


しかし…何の為に?

 


それよりも…

数が多すぎる

そして1番困った事は…



大量のフランソワーズはみな裸だという事。

「一体誰が…」



ジョーは頭を抱える事しか出来なかった。
 

人の来ない無人島だ。
そのままにしておいても…



あぁダメだダメだ!
大量の裸のフランソワーズがここにいるとわかった以上このままにはしておけない。

 


でもどうしたらいい?

いつまでもここに隠れている訳にはいかない。



誰が何のためにフランソワーズのクローンを大量に作ったのか明らかにしておかないと今後何かが起こりかねない。



そっと先ほど大量のフランソワーズが追いかけてきた部屋に向かう。



武器は持っていなかったようだ。
裸だから
追いかけてきたのは何故なんだろう?
誰かが来たら襲うようプログラムされているのか?



先ほど壊した扉の穴から息を潜めて忍び混む。

床に落ちていた扉の残骸を踏んでしまった

 


カタン

「あ」



後ろを向いていた大量のクローンフランソワーズが一斉に振り返る。



「フランソワーズ!ごめんっ!」



目を閉じたい位だが、目を閉じたら先に進めない。



「ニセモノニセモノ」
ブツブツ呟きながらフランソワーズクローン達を倒していく。



その部屋は研究室のようで、部屋の隅には地下に繋がる隠し扉が見つかった。



勢いつけて扉を蹴破る。
 


中にいたのは初老の科学者らしき白衣の男。

突然入ってきたジョーに驚いている。

「お前は一体何者だ?」

「お前こそ、人の研究所にいきなり土足で入ってきて何者だ?はないだろう」

ジョーの顔を見て正体が分かっていないようだから組織の人間ではなさそうだ。

「なぜこんな所でクローンを作っている?」

「こんな所でなければ作れないからだろう?」
科学者らしき白衣の男はにやりと笑う。



「あのクローンは…どこからサンプルを持ってきた?」

「買ったんだよ、闇市場でな、優秀なサンプルだと」

「!!」

明らかに動揺したジョーを見て、科学者が笑う。



「どうやらあのサンプルを知っているらしいな、いい女じゃないか」

ジョーはカッとなり、思わず科学者を殴ってしまった。



「あ…やっちゃった…」

その瞬間科学者の姿が消える。



”ジョー、科学者の方はこっちに任せて、君はこの施設を壊してきてほしい”

「イワン」



それからすぐにピュンマから通信が入る。

”ジョー1人で大丈夫かい?手伝いに行こうか?”



ジョーは誰もいないのに激しく首を振る
「いいよ、いいよ僕1人で何とかなるから!!!」
一瞬イワンがくすっと笑ったような気がした。



…この光景を他の人に見せるわけにはいかないよ…



ジョーは手持ちの爆弾をあちこちに設置すると脱出した。
 

 

迎えに来た船の船頭は「学生さん、生きていたんだ」と驚いた。


慌てて服を着替え、この島に上陸した時のように学生風に戻っていた。



船を出すと、島の真ん中あたりから煙が立ち込めていた。
 

 


「何かあったのか?」
もう船頭の質問に答える気力もなかった。



「さぁ、僕がいる時には何もなかったですよ」

 

 

 



半日かけてようやく戻ってきた。

イワン達からの連絡はまだなかったが、とにかく眠りたかった。



リビングには誰もいなかった。
フランソワーズがいなくてよかったとホッとする。
いつもは真っ先に会いたいが、今日は一番会いたくない。



部屋に行くまで持たず、リビングのソファーで横になりそのまま眠ってしまった。

 





夢の中でも大量のフランソワーズが襲ってきた

「服くらい着せてやれよ!!!」

怒鳴りながら逃げる。



彼女等に感情はないようだ。
言葉も話す事が出来ないようだ。
感情もあり、言葉も話せたら…。
きっと銃を向ける事は出来なかっただろう。



感情のなかったはずのフランソワーズ達が一斉に笑う。

ジョーは「ギョっと」した。



一人のフランソワーズがジョーの目の前で立ち止まる。



「ジョー?どうしたの?」

「…え…」

喋った…
このフランソワーズはもしかしたら…



「ジョー?どうしたの?」
もう一度同じ事を言う。

「どうもこうも…え…?」

瞼を開いたジョーは文字通り飛び起きる。

 




わああああああ〜!!!!!



ものすごいスピードでソファーから飛び起き、ものすごいスピードでソファーの裏に逃げる。



「一体どうしたの?」

寝ているジョーを起こしたのは「ホンモノ」のフランソワーズだった。


 

​6

「ちょっとジョー、どうしたのよ?」


フランソワーズがソファーの裏に回り込む。

「ちょ、ちょっと待って!!心の準備ができていない」

「何を言っているのよ、変よ」

フワンソワーズの機嫌が悪くなる。

 



「ごめん、ちゃんと説明するから」
ジョーがソファーの裏からのそのそと出てきた。


顔は未だ上げられない。

 



「イワンからジョーが大変な事になっていると連絡があったから、レッスン切り上げて帰ってきたのに、その態度は何?」

イワンかよ…絶対面白がっている…
ポーカーフェイスの赤ん坊の顔が蘇る。



ジョーはソファーに腰掛け深いため息をつくと、意を決したようにフランソワーズを見る。

思い出すな、思い出すなと呪文のように心で繰り返す。

フランソワーズもジョーが真面目な顔をしているので、ソファーの向かいに腰掛ける。

 



「ある無人島で君のクローンを見た」

「…え?」
いきなりの言葉に意味が理解できずただ聞き直す。



「一人ではない、ざっと100人はいた」

「それはどういう事なの?」



「どこかの闇市場で君のサンプルが売られていたらしい、クローンを研究していた科学者が無人島に研究所を作り、君のクローンを大量に作成していた。」

ちらっとフランソワーズの様子を見ると、手で口を覆い、言葉になっていなかった。

「それって…もしかしたら」

「違うようだ、博士もわからないと言っているし、イワン達が尋問中だ。研究所は僕が破壊してきたから」

「その…たくさんの『私』はどんな感じだったの?」

「感情はないようだった、皆表情はなかったから、言葉も発することができなかった。」

「まだそこまでの技術はないって…事ね」

「そのようだね」

 

 


フランソワーズはキッチンへ移動する。
コーヒーを淹れてくるとジョーの前に置く。

「ありがとう」
ジョーはコーヒーを飲んで一息つく

「でもさ、いくらクローンだとわかっていてもキミに銃を向けるのは本当に辛かった」




「そのクローンの私は…人間だったのよね?」

フランソワーズの言葉に、ジョーが顔を上げる。

その顔は曇っていた。

「クローンかもしれないけれど…人間の姿でいられるなら…」

ジョーはソファーから立ち上がると、フランソワーズの目の前に座り、フランソワーズを抱き締めた。

「あれはキミじゃない、キミはキミしかいないんだよ…」

フランソワーズはジョーの言葉に目を閉じる。

 



「もし」

フランソワーズが言いかけて言葉を止める。


「その沢山のクローンの中にホンモノの私がいたら…あなたは『私』を見つけてくれるのかしら?」



ジョーはクスッと笑うと

「それは大丈夫、沢山のクローンの中から『キミ』を見つける自信はあるよ」

「本当に?」

フランソワーズはジョーの胸から顔を上げる。


「だってキミは僕以外の人の前で裸にはならない」

その言葉に真っ赤になるフランソワーズ

「え?そのクローンって…裸だったの?」

「どんな恐ろしい敵より怖かった」

「…想像したくもないわ…」

「考えない方がいいよ」



ジョーはもう一度フランソワーズを抱き締める。

「やっぱりホンモノはキミだけだよ」

 



イワンから連絡があれば、フランソワーズのサンプルの入手先もわかるだろう。
サンプルが出回っているのはフランソワーズだけではないのかもしれない。



だけど今は、今だけは


ホンモノのフランソワーズの体温を感じでいたかった。


あのクローンの残像を消す為にも。

 

 




〜おしまい〜
 

2016.4.17~4.29

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