
It Happened One Night
1
彼が私の事をどう思っているのか、よくわからない。
彼は私に優しい。
…ううん、私だけじゃなく女の子全般に優しい。
きっと私に優しいのも、他の女の子達と同じ理由なんだわ…。
と、思いながら、ちょっとした事で気にかけてもらうと、もしかして?などと思う。
時々勘違いしながら、それは違うと思いながら…
気持ちを聞くことも、気持ちを打ち明けることも出来ないまま、時だけが過ぎる。
「平和」になり、みんなはそれぞれ国に帰った。
博士とイワンとジョーと私。
博士とイワンが揃って外出したから、今晩は2人きり。
朝からドキドキする気持ちを抑えながら、普通に振る舞っていた。
ジョーがコズミ博士のお使いで出かけると聞き、どこかホッとした気持ちもあった。
「夕飯までには帰ってくるよ」
彼は2人きりなんて事は意識していないと思う。
ただ自分が帰らないと私が1人きりになるから…そんな程度なんだと思う。
辺りが暗くなってきた。
まだジョーは帰らない。
2人きりの夕飯は初めてだから、何を作ろうかと頭を悩ませた。
ジョーの好物はジェットから聞き出している。
ハンバーグ。
よし‼︎美味しいハンバーグを作るわっ!
手を洗い、腕まくりをする。
…その時。
突然停電した。
「!!」
突然の出来事にその場にうずくまる。
真っ暗になった室内。
咄嗟に「視よう」とした自分。
…あの頃を思い出すのには充分だった。
ジョーは車で帰宅する。
家の灯りが全くないことに疑問を感じる。
「フランソワーズ…留守なのかな?」
まだこの土地に慣れていない。日が暮れても出掛けているとは考えにくい。
「…停電?」
予備電源があるはずなのに…。
ジョーは家に入る。
「フランソワーズ?いないの?」
取り敢えず研究所の予備電源を居住地に回そうと、携帯の明かりを頼りに廊下を進む。
リビングに入る。
「フランソワーズ?」
キッチンの隅に誰かが座り込んでいた。
「どうしたの?!」
フランソワーズだ。
近づいてみたら、とても怯えた様子だった。
「何か…あったの?」
フランソワーズは震えていた。
「…怖い…」
視ないように手で顔を覆っている。
…思い出したのか…。
ジョーはその場に居合わせなかったが、仲間から聞いている。
性能テストという名で何度も繰り返された「訓練」
それがどれ程彼女を追い詰めていたか…。
トラウマとして残るのも無理はない。
ジョーはフランソワーズを抱き締めた。
「大丈夫だ、只の停電だよ」
フランソワーズはジョーの胸の中で涙を流す。
2
繰り返される性能テスト。
真っ暗な部屋で目と耳を使わなければならない。
恐怖と絶望…。
急に扉が開く。
「ここから逃げるんだ!!」
手を差し伸べてくれた人…。
目が覚めた。
夜明け前…。
空は漆黒から段々と深い青に変わっていく。
フランソワーズは目を開ける。
自分の部屋のベッドに寝ていたようだ。
昨夜停電してからの記憶がない。
恐怖と…なにか暖かいもの…それしか感じられなかった。
起きようと身体を動かそうとしたが、何か強い力で押さえられているような…。
目を開けると、ジョーが自分を抱き締めて眠っていた。
眠っているのに、ぎゅっと…。
フランソワーズの頭の上に顎を乗せて、包むように抱き締めていた。
動いたので、ジョーが目を覚ます。
「あ…おはよう…」
半分寝惚けた声で挨拶をする。
「あなたが…ずっとこうしていてくれたの?」
ジョーはフランソワーズから離れた。
フランソワーズはそのままでいたかったから、動かなければよかったと後悔する。
「…ごめん、どうしても放っておけなくて…」
「何故…謝るの?」
ジョーは身体を半分起こす。
ベッドから離れるつもりらしい。
「君が…とても不安そうだったから…過去の傷を埋めることは出来ないけれど…痛みは…同じだから…」
動こうとしたジョーの手をフランソワーズは咄嗟に握る。
「?!」
「…夢を…見たの…」
ジョーは、ベッドから離れることをやめ、フランソワーズの隣で半身起こしたまま、横になっているフランソワーズを見る。
「夢?」
「捕まって間もない頃、暗闇で性能テストをやらされていた夢…」
ジョーの顔が曇る。
「…でも…ね、扉が開くの、そして外から誰かが呼ぶの。『ここから逃げるんだ!!』…って」
フランソワーズはジョーを見る。
「あなたが…あなたが私を助けてくれたの」
フランソワーズも半身を起こす。
ジョーと向かい合うと、両手をジョーの首に回す。
フランソワーズの柔らかい身体に、ジョーが戸惑う。
「ありがとう…」
ジョーの肩に顔を埋める。
両手は首に回したまま。
躊躇いがちにジョーが両手をフランソワーズの腰に回した。
朝日が登ってきた。
カーテンを開けたままの部屋に、朝日が差し込む。
夕暮れに似たオレンジが広がる。
フランソワーズはジョーの肩から顔を上げると、ジョーの顔を見つめる。
ジョーの頬を撫でる。
フランソワーズの潤んだ瞳に、ジョーはドキッとする。
ジョーは頬を撫でる手をそっと握る。
多分今、同じコト考えてる…。
どちらからでもなく唇を合わせる。
空は明るくなってきていたが、そんな事はどうでもよかった。
今、2人が同じ気持ちなら…それで。
ジョーが次の行動に移ろうとした…その時…。
ぐうう~!!
「…」
「…」
2人、キョトンと見つめ合う。
「昨日の夜からなんにも食べていないや…」
ジョーが笑う。
「ごめんなさい!!私が停電で動揺したから!!」
フランソワーズが朝御飯を作ろうと、ジョーから逃げようとした。
が、逆に押さえられた。
「お腹…空いたんでしょ?」
「キミを食べてからにする」
「!!」
「もう少し…このままでいたい」
ジョーがフランソワーズを抱き締める。
フランソワーズは笑う。
とても幸せそうに…。
~おしまい~
2015.6.6~6.7