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コトバ

 

 

 

 

 

 

バタン

扉の閉まる音。

何故いつもこんな事になってしまうのか

空っぽになった心に、虚しさだけが残る。



離れて暮らしても、心に彼女の存在があれば頑張れた。
ずっと側にいてくれたら…とも思ったが、彼女の夢を壊したくはなかった。

逢えば離れたくなくなるから、パリに滞在していても、公演を見ても、声はかけなかった。

活躍している彼女の姿を、嬉しさ半分、寂しさ半分の思いで見つめていた。

公演時にいつも側にいる男性の事が気になったが、彼女が幸せならそれでいいだろう?と、自分の心に嘘をついていた。


 

 

地球を脅かす影に、全員招集がかかった。
ボクはフランソワーズは呼ばなくてもいいのでは?と意見したが、声をかけないわけにはいかない。と、ボクにフランスに行って欲しいと頼まれた。

 


久しぶりに再会した彼女はボクの姿を見ると嬉しそうな顔をしてくれた。
でも同時にボクが来た理由も悟っていた。

この瞬間が何より辛い。


やっぱり自分は彼女の側にいてはいけない存在なのだと。

彼女の隣にいた男



バレエの公演で常に側にいる。
彼女が人間らしく生きている時に、いつも側にいる。



側にいれる…


そう思うと腹立たしく思えたが、大人気ない態度だけは避けたかった。
彼女が大切にしている世界なのだから…

その場はすぐ立ち去ったが、心は穏やかではなかった。

 

 


離れていても心は繋がっている…
そう思っているのは自分だけなのかもしれない。

 



波風を立てる気なんてないのに、気がつくとバレエのスタジオの前にいた。

彼女はいないようだ。



大きな窓からこっちを見ているのが分かった。
レッスン生の女の子達がこっちを指差しながら騒いでいる。

その時初めて自分の存在をわかる人が多い事に気づく。

日本はモータースポーツ人気はそれほどでもないし、宣伝活動もしていないから、あまり目立った事はなかった。

この国はそれなりにモータースポーツ人気なのかもしれない。

…目立ちすぎたか…



その様子に気づいたアズナブール先生が、ボクを別室に案内した。

「しかし驚いた、あなたのような有名人がフランソワーズの知り合いとは」

アズナブール先生はソファーに腰を下ろすと穏やかな表情で話し始める。



「サインお願いしてもいいですか?レッスン生達も騒いでいましたよ」

「いや…フランソワーズか何と言うか…」

アズナブール先生は声を上げて笑う。

「あなたもフランソワーズには頭が上がらないんだな」



…も?



「あの…先生は…」

「何ですか?」

「…いや、何でもないです」



「あなたの存在は随分前から分かっていましたよ、あなたがフランソワーズの前に現れると、フランソワーズは休団届けを出してどこかに消えてしまう」


先生はチラッとボクを見た。



「だからなかなかフランソワーズは大舞台に立てない」

「…すみません」

「いや、別にあなたを責めているわけでもないし、それを決めているのはフランソワーズ自身なのだから」

「理由は聞かないでもらえますか?彼女がまたあなたの前に現れたら、何も聞かずに受け入れて下さいますか?」



「それは当たり前だ。彼女には才能がある。それを最大限引き出すのは私の仕事だ」

 



彼女の才能を最大限引き出す…
自分は…それを阻んでばかりいる。

 

 


迎えに来てしまった事を後悔した。
彼女も自分と同じ気持ちでいると思っていたが、それは勘違いなのだと思い始めた。

 



先生のスタジオを後にして、歩いている時に、彼女から連絡が入った。

彼女と待ち合わせしたカフェに先に到着する。



彼女は僕の姿を見つけると、笑顔になる。



「昨日はごめんなさい、昨日一緒にいたのはバレエの先生なの」

まさか先程まで会っていましたとも言えず、素っ気なく「そう」とだけ言ってしまう。


「何かあったの?」



…そうだよね。


僕が何もなしに君に会いに来る訳はないんだ。
もうそれが当たり前になっているんだよね。




「キミを呼ぶかどうか悩んだんだけれど…」



彼女が視線を落とす。

次の言葉はきっとわかっている。
またこの街を去らなければならない
この生活を捨てなければならない


「スペースウォッチコマンドが何者かに破壊された、何者かが地球に近づいてきている。他の仲間はコズモ博士の研究所に向かっている…」

 


僕はフランソワーズの顔をじっと見つめた。
視線に気づいた彼女は、顔を上げる。



「キミが今の生活に満足しているなら来なくてもいいんだ…いちおう声をかけただけだから」



彼女に逢いたい。
一緒にいたい。
でもそれは彼女にとっては



不幸な事…

 



空港で待ち合わせをした。


時間まで彼女が来なければ、もう邪魔はしないと決めた。

 

 


 

翌日、約束の時間に現れた彼女を見て、また一緒にいる事が出来ると一瞬でも思ってしまった自分が嫌になる。



彼女は幸せな生活を捨ててきたのだから。



今の自分が出来る事…



気の利いた言葉も言えずただ手を握る事しか出来なかった。

彼女は俯いていた。
泣いているんだとその時思った。



ごめん、君の幸せをまた奪ってしまった。

 





日本に戻ると、慌ただしい時間が過ぎる。
気が付いたら地球を離れていた。

離れていく地球をじっと見ているフランソワーズに声をかける。


「ごめん、キミをまた危ない目に遭わせている」

彼女は振り返り、僕を見る。

「あなたに再会してから色々ありすぎて、ゆっくり話もしていなかったわね」


「確かにそうだ」
そうだな、僕は時々君を見ていたから、久しぶりな感じがしなかったが、君は久しぶりだったんだ。


「あなたはまだ走っているの?」



アズナブール先生のスタジオに行った時、レッスン生達が騒いでいたのを思い出した。
あの国ではモータースポーツは人気らしいが、彼女の言い方では彼女自身興味がないのだと思った。
興味のない話をしても仕方ないだろうと、「まあね」とだけ返し、話題を変える。



「キミはかなり活躍してるようだよね」

「え?」
彼女は驚いた顔をして見ている。

「実はヨーロッパに滞在している時、時間があればキミの公演を見させてもらっていたよ」


「え…来てくれていたのなら顔を出してくれれば…」

顔を出したら、何もない時に君に逢ったら…
離れたくなくなるから
ずっと側にいたくなるから



君の幸せを考えたら…辛いけど逢わずに帰るしかなかった。




「キミが人間らしく暮らせている時には、ボクは不要なんだよ」



彼女は黙って僕を見ていた。

 

 

 

 



 

途中不時着した星。


船の燃料も豊富にあり、過去に文明が栄えていた跡があるが…

 



今は全て廃墟と化していた。

 



それが今地球を脅かしている者達の仕業なのは明確だった。




そんな中、囚われていた女王を救出した。



女王は長い間囚われていた。
大きなロボット兵が一体女王を見張っていた。



仲間でロボット兵をようやく倒す事が出来た。



女王はテレパシーを持っている。
解放された事を原始人化してしまった住民達に伝えると、神殿前には沢山の群衆がやってきた。



みな僕達を英雄と称え、不時着時に損傷した船も、燃料も手配してくれる事となった。



同時に廃墟となった街の再建も始まり、星は昔のように活気に満ち溢れていた。

 



船の修繕の事で、僕は女王の元に通うようになった。
女王はこの星の歴史や、資源、文明の話を沢山聞かせてくれた。



長い時間囚われていて、誰とも話をする機会がなかったのだろう。
話は止まる事なく、僕も興味がある話だったから、熱心に聞き入っていた。

少しの打ち合わせが、何時間も過ぎていた事もあり、慌てて船に戻る事もあった。



この星のかつて栄えていた文明。
ここまで廃墟にしてしまう敵の恐ろしさ…
早く船を修理しなければ、地球も同じ姿に…

 


戦いを終え、彼女を早く元の生活に戻してあげなければ…
ふと先生と一緒の彼女の姿を想像してしまう。

 



自分よりもずっと…側にいてもいい存在。

胸がギュッとなる。

 



船に帰ると、笑顔で迎えてくれる彼女の姿があった。



ホッとすると同時に、この笑顔を守る為に、早くここを出発しなければと思う。

船の修繕を終え、船の燃料も詰め終わった。



早くこの地を去って、敵の本拠地に行かなければならない。

 



これまでのお礼と別れの挨拶を言うために、女王の元へ向かった。

挨拶をすると、とても寂しそうにうつむいた。

もう逢うこともない異星の女王。



頼りなく微笑むその姿に、少し胸が痛んだ。


孤独…


彼女はこれから一人でこの星を再建しなければならない。

 



「とても私1人の力では…この星を再建できない」

でも…まさか、僕にこの星に残って欲しいなんて…

言われるとは思わなかった。

彼女は目に涙を浮かべて訴えた。

 


でも…



僕に歩みよった女王は、瓦礫につまづいた。



「あ、危ない」
咄嗟に手を伸ばし、女王を抱きしめる形になった。

女王は僕の胸に顔を埋めた。

 




その時

フランソワーズが宮殿の階段の途中で立ち止まる。

ぱっと女王から離れる。


「フランソワーズ…」
どうしてここに?
あれだけ船から出なかったのに。


「…ちょうど良かった、キミにも聞いてもらいたい」



フランソワーズが今の状況を誤解したとしても、これからの言葉で解ってくれるだろう。

早く行かなければ、捕らえられた人や地球が…



言い終えて女王を見た。

悲しそうにうつむいていた。



心は少し痛んだが、僕はこの星にいてはいけない。
 

痛む心のまま、女王に背を向けて歩き出す。



階段の途中にいたフランソワーズの様子がおかしい。

「どうした?」

「敵艦が襲ってきたわ、物凄い数!」

ここで襲われたら…無防備すぎる。



僕は咄嗟にフランソワーズの手を握り走り出す。

ただ逃げるしかなかった。



女王は宮殿の何処かに隠れられるだろう…その時はそう思っていた。

何故女王も連れて逃げなかったのか…



敵は動いているものを手当たり次第攻撃していた。
僕はフランソワーズに覆い被さり、あたりが静まるのをただじっと待つしかなかった。

 




静かになり、起き上がる。
何もかも無くなっていた。


はっと気づき女王を探す。

宮殿に逃げ込んでいるはずと信じていたのに…

 


僕を追って外に出てしまったようだ。
瓦礫の山の下敷きになっていた。



どうして…僕を追ったんだ…



女王を抱き起こす。
呼びかけると苦しそうに…笑った。



声にならない声で僕の名を呼んだ。



罪悪感に襲われる。



僕はキミを置いて…逃げた。





僕等がこの星を見つけなければ
僕等がこの星にいることが気づかれなければ

 

 


捕らえられたままだったかもしれないが、生きていけたのに…




自分の無力さを思い知らされた。

 



今はただ…ひとり女王の冥福を祈るだけだった。
 

その後も激しい戦いは続き、ついに敵の要塞に辿り着いた。



自分は無力かもしれない。
でもヤツを倒さなければ…自分たちに未来はない。


小型シャトルに乗り込み、単独で敵と対峙する。



フランソワーズが僕の元に走り寄る。
今にも泣きそうな顔で僕を見る。



…最後かもしれないのに、キミの笑顔が見たかった。


「後は頼んだ…」


僕は前だけを見た。
振り返り、彼女を再び見てしまったら…



僕は弱気になってしまっただろう。

 





あの中で
敵は自分自身の欲に溺れ自滅した。

 


あの中で
僕は穏やかな気持ちになっていた。
ずっと心に閉まっていたほんとうの気持ちが溶け出す。



自分に嘘をついて
解ったようなフリをして
彼女への気持ちを抑えていた



あの中で、僕は僕自身の本心に気づく



地球に帰りたい


そして
フランソワーズと一緒に暮らしたい

 



あらゆる感情が綺麗に流れ出す。



そして光に包まれた。


 

 

 



もう帰る事がないと思っていた地球。



沢山の犠牲もあったけれど、再び地球に平和が訪れる。



有事が解決すればみんなまた別々の生活に戻る。

 



あの中では、自分自身に素直になれた筈。
なのに、目の前に彼女の姿を見た時、再び彼女の幸せは自分のいる所ではない。なんて考えてしまう。



もし…フランスに帰らないと言ったら…


「キミはフランスに帰るの?」

思い切って聞いてみた。



「いずれは帰るけれど、しばらくは日本にいようかと思っているわ、博士の所にでもお世話になるつもり」

ずっと側にいたい、なんて言えはしない。でも日本にいるうちなら…




「日本にいるんなら、ボクん家に来ない?しばらくは日本のレースだからマンションから通うし」



彼女は少し戸惑っているようだった。
 

 

 

10

交通の便の悪い郊外に建つマンションに住んでいた。



何故そんな所に住んでいるのかと、仕事仲間とかによく聞かれた。

きっかけは電車を乗り過ごしてしまった事だった。



乗り換えをしようと電車から降り、ホームで待っている間に見えた町の景色が、昔何処かで見たような、懐かしい気持ちにさせた。

気がついたらその駅を出て、町を歩いていた。



それがいつなのか、本当に来た事があるのか、記憶は曖昧だったが、心が落ちついた。

それから何度かこの町を眺めに来た。

 


何度目かに駅を出た時に、マンションが出来る事を知った。

最上階の角部屋に住める事になるとは思わなかったが、窓からは町が見渡せた。

 



いつからかここで彼女と暮らしたいと思うようになった。
時々遊びには来てくれたが、一緒に暮らすとなると意味合いが違うのか、それはなかなか実現しなかった。




家に帰ると「おかえりなさい」の笑顔と、暖かい手料理が待っていると思うと、とても幸せな気持ちになった。

スタッフ達に付き合いが悪くなったと言われても、仕事が終わるとマンションに向かった。




いつもより早く片付いたので、たまには外で食事をしようと考えた。

連絡しようと思ったが、早く帰って驚かせよう、なんて思った。


そっと部屋のドアを開ける。
テレビをじっと見つめている。



テレビに映るのは…



アズナブール先生…


わかっていた。
彼女はこの生活を楽しんでいない事を。



僕は自分のマンションという鳥かごに、彼女を閉じ込めているだけだったという事も。
 



ここに来てから彼女が時々見せる心がどこかに行っているような態度と、テレビの中の先生の姿に、彼女がフランスに帰りたいと思っている事に気づく。




僕が目の前にいるのに気づいていないなんて…

 



側にあったリモコンを手に取り、テレビを消した。

ビクッとして、僕を見上げた。

「お、おかえりなさい、早かったのね、今、夕飯の支度をするから…」

慌ててソファーから立ち上がろうとした彼女の肩をそっと押さえる。

「いいよ…ちょっと話そうか…」

そのままソファーに座らせて、僕もソファーに腰掛ける。

「ボクといると面白くないみたいだよね」



自分が悪いのに
彼女を責めている。


「え?」
彼女は小首を傾げる。



「キミはまだアズナブール先生の想いを捨てきれないでいるんじゃないのか?」

言ってはいけない…でも言わずにはいられなかった。


「アズナブール先生…?」

さっきテレビで見ていただろう?


「ここに来てからキミはずっと心ここにあらずだ。そんなにアズナブール先生の事が気になるなら、フランスに帰ればいいじゃないか!」

「そんな…」

言ってしまった…
彼女は僕をじっと見つめ、そして1度俯くと、すぐ顔を上げた。


「あなたこそ…」



「女王の事をまだ想っているじゃない!」

 



え?
何を言っているんだ…?



女王?
あの時の事をまだ…
女王には助ける事が出来なかった罪悪感はある。



キミはわかってくれていると



思っていたのに…

 




大きく息を吐く

多分今何を言っても彼女は聞いてはくれないだろう。



落ちついたらちゃんと話をしようと思っていたが、フランソワーズの気持ちが…
心がどこかに行ってしまっていたから…


「言い訳はしないよ、したって今のキミじゃ話を聞いてくれそうもない。」



フランソワーズはキッと僕を睨むと

「もういいわ、わかりました」

そう言って出て行った。


 


何も言えず
追う事も出来なかった。

 


ただ

 


何故こうなってしまったのか
混乱するだけだった。

 

11

ギルモア博士の研究所は、近くにコズモ博士が大きな研究所を作り、そこに住む事になってからは、まるで廃墟のように朽ちていた。



今回の事で、またみんなで時々再会しようという事になり、廃墟だった研究所のリフォームが始まった。

 



時々再会と言っても、日本で暮らす僕でさえあまり行けていないのが現状だ。
でも博士は久しぶりの再会に希望を見たようだ。



まだ工事は途中だが、博士とイワンの居住スペースは確保しているらしく、最近越したと連絡があった。

 



出迎えたのはイワンだった。

「工事がどれ位進んでいるかと思ってね」


僕が言うと


「一足違いだったよ、遅すぎ」
と的はずれな言葉を返す。



「心…読んだだろ?」

「まぁ間にあったとしても、フランソワーズを止める事は出来なかったと思うけどね」



ナマイキな事言ってるよ。




「言葉に出さなければ相手に伝わらない事だってあるんだ」

「例えば?」

「言わない」



…けち


どうせ心読んでるんだろ?



「彼女はキミが言葉にしないから、不安を抱えたままだ。キミの本心を彼女にぶつけたらいいだろ?」



言葉にしないから…か。
 



そうだな、お互いの気持ちをちゃんと話した事なんてなかった。

12

気がついたら夜中だった。



何もする気が起きず、食事もロクに食べていない。




フランソワーズがいた日々は、この部屋も暖かい感じがしていたが、今はただ無機質な空間になっていた。

別々に暮らしていた頃には感じなかった孤独。
一緒に暮らしてしまったから、この部屋に彼女の思い出が出来てしまったから…



やはり


一緒に暮らすのは無理だったのかもしれない。
自分の気持ちを押し殺し、フランスに帰していたら…


こんな気持ちにはならなかったのに。



それもどこか身勝手で、そんな自分を嘲笑う。



彼女の幸せって…何なのだ?

 



イワンは言葉が足りないと言うけれど、僕の本心を伝えたら、彼女は不幸になるだけだ。

 

 



部屋のインターホンが鳴った。



…こんな時間に?

部屋に戻りモニターをチェックする。

モニターに映った顔に動揺する



「…フランソワーズ?」
フランスに帰ったんじゃ?



はっと我にかえる
「今、降りるから待ってて!」



「いいわよ、部屋にいて」
彼女の言葉に、エントランスのドアの鍵を解除する。



しばらくしてチャイムが鳴る。

ドアを開けた途端、フランソワーズが飛び込んできた。



「フランソワーズ…」
嬉しいのか何なのか、自分の中でも整理が出来ず、ただ飛び込んできたフランソワーズを抱きとめる事しかできない。


「あなたへの私の気持ちを全部語ってからフランスに帰る事にするわ、長くなるからなかなか帰る事が出来ないけれど」


あなたへの私の気持ち…?



そうだな、僕同様キミも自分の気持ちを話した事なかったよな…
お互いこれじゃ、イワンも心配する訳だ。

 



「おかえり…ごめん、キミを不安な気持ちにさせていた」

身体を離したフランソワーズをもう一度抱き締める。

彼女の暖かさに、涙が出そうになる。



彼女は笑って
「もういいわ、ここに来る前に解いてきたから」

と言う。


ほどく…って何を?



「解く?」

「あなたに対しての心の中にあったわだかまりよ」

わだかまり…
女王の事か?


 


「でも…まだ最後まで解いた訳ではないの」

フランソワーズは僕の耳元で

「最後はあなたに解いてもらいたいから…」
と囁いた。

 


お互いちゃんと向かいあって話をしよう。
自分達の心の中の物全て出してしまおう。

 



綺麗事はその後だ。

 



そう考えたらすっと楽になった。
 


フランソワーズが誤解している女王への気持ちも、きちんと話をすればわかってくれるだろう。


「…そっか」

抱き締めていた彼女をそっと離す。


「なかなか厄介なわだかまりみたいだから、朝までかかるかもしれないな」


「お手柔らかに」

彼女は笑う。

 



僕は、フランソワーズの肩を抱き、部屋に入る。

 




部屋のドアがぱたんと閉まった。

 




~おしまい~

 

 

 

 

 

 

2016.1.16~1.26

 

 

 


 

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