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Oops!

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渋谷のコズミ博士の生化学研究所。

「こんにちはー」
フランソワーズは頭をキョロキョロさせ、人を探す。

事務所内が閑散としている。

「誰か…いませんかぁ?」

「あぁ、ごめん!」

駆け寄ってきたのは所長だった。

「みなさんお出かけなんですか?」

「大事な会議があってね」

「でも…所長が留守番なんて…」

「フィリップの奴がね、風邪引いて休んでるんだ。あいつを留守番要員にしていたのに」

「風邪ですか…それは心配ですね」

「所で貴女は何故ここに?」

「あ。イワンからの預かり物を届けに来ました」
カバンからUSBを出す。

「要返却かぁ、しっかりしてますな、お宅のベィビィは」
所長が笑いながらフランソワーズを応接間に通す。

「メールでもよかったのに」

「メールが信用できないようで」

「で、もう眠っちゃった…とか?」

「いいえ、博士と一緒にアメリカですわ」
フランソワーズは所長が淹れてくれたコーヒーを飲む。

「学会に子連れじゃあ、ギルモア博士も大変だ」

「大丈夫ですわ、子守同伴なので」

「なるほど」

「フィリップさん、大丈夫なんですか?」

「昨日うちのヤツに見に行かせたが、熱があるらしい…あ、そうだ」

所長はニヤリとフランソワーズを見た。

2

ゴホン!ゴホン!

あぁ~最悪だ。
頭は重いし、身体は痛い。

こういう時一人暮らしは堪える。


昨日は所長の奥さんの冴子さんが様子を見に来てくれた。
浅草で小料理屋を営んでいる冴子さんは、美味しいお粥を作ってくれた。
語学が堪能で若い頃はフランスに短期留学していた事もあるという。
何故あんな美しい人が所長の奥さんなのだ?

どうしたらあんな美しい人と知り合えるのだ…?


美しい人で思い出してしまったではないか。

フランソワーズさんに会いたいなぁ。


「ピンポーン」


誰だ?
新聞の勧誘ならお断りだぞ。

モニターを覗く。
飛び上がりそうになる。


「ふ!フランソワーズさんっ!!」
何故ここが?
どうして?なぜ?どうして?


あぁ頭が…クラクラ…なんて言っていられない!

フィリップは熱が出ているとは思えないスピードでドアを開ける。



「フランソワーズさん!!」

「風邪を引いて寝込んでいるって聞いたから…大丈夫?」

「ど、どうしてここに?」
夢を見ているのかもしれない、いや、熱で意識がもうろうとしていて…こんな妄想を…。

「シブヤに行ったら所長がフィリップさん風邪で寝込んでいるっていうから、様子を見に来たの」

はっ!

所長~、もう、なんて気の利く…いや、そうじゃない。

こ、こんな姿見られたくないし
フィリップはぼさぼさの髪で頭を抱える。

「だ!大丈夫ですよっつ!これっくらいの風邪!!」

フランソワーズはフィリップのおでこに手を当てる。
それだけでぼーっつと火がついたように赤くなる。

「熱があるわ、大丈夫なわけないじゃない!」

とりあえず横になる。
あぁ、嬉しいような、困ったような…。
部屋の中も散乱しているよ。

フランソワーズはそんな事を全く気にしていないように、冷蔵庫の中の物を確かめる。
「うん、これだけあれば大丈夫ね、買い出しにもいかなくて済みそうだわ」

「な、何を?」

「あ、所長から抗生物質もらってきたから、これ飲めば一発で風邪が治るらしいわ。」

フランソワーズはキッチンに立つ。

「スープ作るから、ちょっと休んでいて」

え…?
そんな…いいんですか?
フィリップは嬉しいやら困ったやらで混乱していた。


 




横になっていろと言われても気になって仕方ない。
ベッドから起き上がると、リビングに向かう。

リビングの先にある小さなキッチンでフランソワーズが後ろ向きで料理を作っている。
トントンと軽快な包丁の音と、昔聞いたようなフランソワーズの鼻歌が、故郷のキッチンを思い出させる。
どことなく楽しげに料理を作っているフランソワーズの後姿。

こんな贅沢って…。

あ…。

フィリップはある事を思い出す。


「あの~、フランソワーズさん?」

「なぁに?」

振り返った彼女にどきっとする。

「ジョー…さん待っているんじゃ?」

「え?」

え?って。

「ジョーはアメリカだけど」

あ!め!り!か!

「どうしたの?」

「いや…何も」
そうか、アメリカか!それじゃあすぐに飛んで帰ってこれないわけだ。

「出来たわ、フィリップさんの故郷の味と同じかどうかわからないけれど、私の母が作ってくれていたスープよ」

冴子さんのお粥ももちろん美味しかったが、やはり故郷のフランスの味が恋しい事がある。

「旨い…」

「…故郷を離れたった一人で頑張っているフィリップさんは偉いと思うわ」

そうだよね…。

フィリップはフランソワーズをじっと見つめる。
彼女が自分に抱いている感情は「同情」なんだ。
でも故郷が同じという事は共有できる部分もあるわけだ。

ふっとあの日本人が浮かんだ。


「僕の故郷の味と同じだよ、母が作ってくれたスープと同じ。」

「ジョーはお粥がいいっていうのよ、やっぱり弱った時はその故郷の味がいいのかしらね?」

そうだ!そうだ!聞こえるか?あの日本人よ!僕とフランソワーズさんの故郷の味は同じんだぞ!!


「さ、スープ飲んだら、お薬を飲んで、眠って」


今薬を飲んで、眠ってしまったらきっとフランソワーズさんは帰ってしまうんだろうな。
でも早く治さないと。
残念だけと休むことにした。

 




何時間寝ていたんだろう。

目が覚めた時あたりはもう真っ暗だった。
ベッドサイドに置いてあった携帯で時間を見る。

「もう夜中なんだ…」



所長の抗生物質が効いたようで、頭はすっきりしていた。

フランソワーズさん、もう帰っちゃったよな。
きっと眠っているから黙って帰ったんだろう。

水が飲みたくなり、キッチンに向かおうとする。

リビングの電気を点けた。

リビングのソファーに誰かが寝ている…

「?!」


「え…?!」

フランソワーズも部屋が明るくなり目が覚めた。

「あ、目が覚めた?具合は?」


「具合は…って…今、夜中ですよ???」

「電車止まっちゃって、それにフィリップさん一人で心配だったから…」

心配だからって…オトコの一人暮らしにお泊り…って。


「ごめんなさい、迷惑だった?」

「いや、迷惑だなんて…それよりも家にいなかったらジョーさん心配するんじゃないですか???」


「大丈夫よ、連絡なんてしてこないから」


…そういうものなんだろうか…。

「僕なら心配で毎晩でも連絡しちゃうな」
思わずぼそっとつぶやいた。


フランソワーズがくすっと笑う。

「フィリップさんのそういう所、好きよ」

好きよ、好きよ、好きよ…。

ボッ!

「大変、フィリップさんまだ熱下がっていないじゃない、それに汗びっしょり、着替えましょうね」

いや、着替えは自分で…

あああああ~!!




その後はフランソワーズが気になって眠れなかったフィリップ。

空がだんだん明るくなり、朝になる。

遠くで電車の音がする。


そっとリビングに入ると、ソファーで気持ちよさそうに眠っているフランソワーズがいた。
穢れのない天使のような寝顔。
手を触れる事なんて自分には出来ないと思った。

熱はフランソワーズの看病と、所長からもらった薬が効いたのか下がっていた。
もう一日休めば研究所にも行けるだろう。

もうしばらくフランソワーズを起こさないようにそっと扉を閉めた。
寝室に戻り、ベッドに横になる。

「ありがとう」
ぽつりとつぶやいた。







それから数日後。


すっかり風邪が治ったフィリップは、フランソワーズにお礼を言うため、ギルモア邸の玄関前にいた。
研究所の女の子たちの間で話題になっているガトーショコラをお土産に。

深呼吸をしてチャイムを鳴らす。


満面の笑顔で「治ったのね」と言ってくれるフランソワーズの姿を想像するだけでにやけてくる。


ドアが開いた。

そこにいたのは

ものすごく不機嫌な顔をしたジョーだった。


「何か用?」
あきらかに不機嫌だ。



…もう帰ってきたんだ…
今まで高揚していた気持ちが一瞬で萎んだ。


「絶賛時差ボケ中だから用件は手短に、で、何?」

明らかに今寝てました風なジョーが不機嫌に質問してくる。



「フランソワーズさんは?」

恐る恐る聞いてみる。



「風邪ひいて寝込んでいるけど?」

「え…もしかして…風邪移しちゃった???」


はっ!
思わず口に出た言葉をジョーは聞き逃さなかった。




「…お前、今…なんて言った?」



うわぁぁぁ~!!






~おしまい~
おしまいか~い!!

 

2015.11.15~11.19

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