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pure

1

ゆらゆらゆら・・・。
何も見えない、聞こえない。
このままずっとここにいられたらいいのに・・・。
何もかも忘れて・・・。

・・・そういう訳にはいかないみたいだ。
お姫様が呼んでいる。

ジョーは一旦深く潜ると、浮上した。

「やっと見つけたわ」
海岸では、白いサマードレスを着たフランソワーズが立っていた。
「また服を着たまま海に入って!」

犬みたいに身体を振りながら岸に上がる。
「おっと」
わざとつまづいた振りをして、フランソワーズに抱きつく。
「きゃっ!!」
「あーあっ、濡れちゃったね」
「もう、どうするのよ」
「何時に空港に着くの?」
「お昼過ぎと言っていたわ」
「まだ時間がある。一緒にシャワーを浴びましょう」
「もう、ジョーのエッチ」
「ははは、男はみなそうです」


話は1週間前に遡る。

栗原博士から、突然聞いた話。

「私には娘がいるの」

「え…?」

「今はアメリカの大学に通っているわ。中高は日本だったけれど、全寮制の女子高に通っていたから、あまり一緒に暮らしたことはないわ」

「…そうなんですか…」

「娘は私と同じ産婦人科医になりたいと勉強をしているの。いずれは私の跡を継いでもらいたいと思っているわ」
「頼もしいですね」

「娘が夏休みを使って日本に戻ってくるんだけれど、しばらくお宅に置いてもらいたいの」

「え…?せっかく親子水入らずなのに」

「博士とも話をしたんだけど、生体工学の知識も持った方がいいかと思って、島村君もしばらくいると言っていたから。」

「はぁ…」

「ご迷惑…かしら?」

「いえ、そんなことはないですわ」


栗原博士は随分長い間お世話になっているが、家族の話など全く聞いた事がなかった。
まさか同年代の娘さんがいるなんて…。
何故娘さんの話をしなかったのだろう。
何故離れて暮らしていたのだろう。


ギルモア博士だって栗原博士とは長い付き合いなのに、そのような話を全く聞いた事がなかった。

何か…事情が?


「何を考え込んでいるの?」

シャワーを浴び、
首にバスタオルをかけ、上半身裸のジョーが冷蔵庫を開けながら言う。

「栗原博士は娘さんの話を一度もした事がないの…突然話をしたかと思えばしばらく面倒見て欲しいって…おかしくない?」

「だって全寮制の学校とアメリカの大学だろ?離れていても仕方ないんじゃない?」
気にする様子もなくミネラルウォーターを一気飲みする。


「ジョー、そろそろ迎えに行かないと」

「あ、そうだね」
ジョーはタオルをフランソワーズの頭にかけるとキッチンを出て行く。

「もう!濡れてる!」

「あんまり深く考えない事だよ、笑顔で迎えてあげようよ!」

抗議するフランソワーズにジョーは笑ってそう言った。

 

 

 

 

 

2

 

 

 

栗原博士とは空港で待ち合わせしていた。

フランソワーズには気にするなと言いながら、ジョーにも引っかかる部分があった。

栗原博士の夫の事だった。

ギルモア博士から栗原博士の夫の話を聞いた事があったのを思い出したからだ。

確か…ギルモア博士と同じアメリカ人の生体工学の博士で、一緒に捕らえられていた科学者の1人だった…と。

捕らえられていた時に栗原博士と出会い、自由になってから一緒になったらしい…と。

その時娘の話はなかったから、栗原夫妻には子供はいないと思っていた。

これから会う「娘」が、両博士の子供なら、何故わざわざ生体工学の勉強をするために日本に来なければならないのか?
アメリカの父親の元で学べばいい。

何故?

空港の駐車場に車を止める。

見上げる空には入道雲
飛行機が強い日差しに反射した。
ジョーは目を細めた。

「今日も暑くなりそうだな」

青空に背を向け、空港に入る。


 

3

国際線乗り場は沢山の人が行き来していた。

待ち合わせのロビーには栗原博士の姿が

「博士!」
ジョーが声を掛けながら近づくと、栗原博士も席を立ちジョーに近寄る。

「ありがとう」
博士はいつもの笑顔でジョーの元に来る。

ジョーは辺りを見回した。
「博士、娘さんは?」

栗原博士は苦笑いを浮かべ
「あそこにいるわ」と指を指す。

2人の視線に気づいたのか、スーツケースを重そうに引きずりながら、1人の女性が近づいた。

アメリカの大学に行っているのだから、どんなに自由そうな女性かと想像していたジョーだったが、目の前の女性は小柄で長い髪を三つ編みにし、メガネをかけて俯いている。

大学生というより、中学生に見えない事もない。

女性は栗原博士の隣に立つ。
俯いたままで顔はよく見えない。

「娘のアンナよ」
博士が紹介すると、女性が小さな声で
「よろしくお願いします」と頭を下げた。

「よろしく」
ジョーが右手を差し出すと、ちらっと様子を見て、恐る恐る右手を出す。
顔が見えたが笑ってはいない。

女性の扱いに関しては慣れている方だったが、アンナは「苦手なタイプ」なのかもしれない。
…もっとも、向こうも同じ事を考えているだろう…そう思えた。

車に乗っていてもアンナは決して自分から口を開かない。
さすがに長時間無言も耐えられずに、博士とジョーが気候の話などをしていた。

フランソワーズならこのだんまりお嬢さんの心を開いてくれるだろう。
ジョーだけでなく、栗原博士も同じ気持ちだから、娘の面倒をフランソワーズに頼んできたのだろう。


博士とアンナの間にもほとんど会話がなく、久しぶりの母娘の再会なのにどうしてこんなにドライなのか
違和感だけが広がっていった。

4

こんな気まずい車内は初めてだった。

ジョーは栗原博士とアンナが車から降りたのを確認すると、大きく息を吐く。

車庫に車を入れている時、ミラー越しにフランソワーズの姿を確認する
「あとは任せた」
思わず独り言を言う。

栗原博士は用事があるとかで、邸には入らず帰ると言う。
車から降りたジョーが咄嗟に「送りますよ」と言った。



フランソワーズはアンナをゲストルームへ案内する。
「どうぞ、部屋の物は好きに使っていいわ」

「あの…」
聞き取れない程の小さな声だったが、フランソワーズには「聞こえた」
「なあに?」

「お世話になります」
アンナはぺこりと頭を下げる。

フランソワーズも「こちらこそ」と笑う。
不思議そうにしているアンナに
「アンナさんはお母さんと同じ産婦人科医を目指しているんでしょ?私は今お母さんに診てもらっているからいずれはあなたに診てもらいたいわ」

「そんな…なれるかどうかはわかりません…ただ勉強しているだけで…」

「お母さんは素晴らしい方よ、そんなお母さんの娘さんでアンナさんが羨ましいわ」
一瞬アンナの顔が曇ったのをフランソワーズは見逃さなかった。

栗原博士が全く娘の話をしなかった事、その娘が母の話に顔を曇らせる事。

何かの解決策に彼女はここに連れて来られた…

「長旅で疲れたでしょ?しばらく休んだら?」
フランソワーズはそう言い残しドアを閉めた。

5

「ごめんなさいね」
「いや、いいですよ、僕も行くところあったんで」

「そうじゃないの、アンナの事よ」

「え?」

「おかしいと思ったでしょ?」
「おとなしいお嬢さんですよね」

しばらくの沈黙にジョーはミラー越しに後ろの栗原博士を見る。

「あの子とは色々あって…私や主人に対して不信感を抱いているの」

「そうですか…確か栗原博士のご主人は生体工学の研究者と伺っていましたが、娘さんがわざわざ日本で生体工学の勉強をすると聞いた時に、お父さんとはうまく行っていないのかとは…」

「それをあなた達に押し付けるようで本当に申し訳ないと思っているわ…でも」

「でも?」

「娘の心を開くのはあなた達しかいないと思ったから」

「…僕…達?」

「あなた達なら娘の気持ちをわかってくれると思ったから」

「それはどういう事なんですか?」

「…いずれ、わかるわ」

ありがとう。と告げると、栗原博士は車から降りた。

「あ、夜ダイジンがご馳走作るって、コズミ博士もいらっしゃるからご一緒に」

「私がいると娘の気分が悪くなるから…遠慮しておくわ。
娘をよろしくお願いします。」

後部座席のドアが閉まる。
栗原博士の表情を窺い知る事は出来なかったが、きっと辛い顔をしているに違いない。

何の行き違いがあって家族がバラバラになってしまったのだろう。

いずれわかるとは?



 

6

「賑やかすぎて疲れたかしら?」

テラスで風に当たっていたアンナに気づき、フランソワーズが声をかける。

「私の為にこんな…ありがとうございます」

「いつもはもっと人がいるからもう大変なのよ。」

「いいですね…私いつも1人だから…」

「アメリカでは一人暮らしなの?」

「ええ、大学の友達もいないので、いつも1人でご飯を食べるので、賑やかにご飯を食べるのは久しぶりです」

「そうなの…この家では1人になる事はあまりないから…」

「でも、1人も気楽ですよ、誰にも気を使う事もないですから」


ようやくフランソワーズには心を開いてくれるようになったアンナだったが、時折突き放すような言葉を発した。

それが寂しさの裏返しなのか、本心なのかはわからないが、この家にいる間位は寂しいと思わなければいいなとフランソワーズは思っていた。


「ダイジンがデザートの杏仁豆腐を出すそうよ、リビングに戻りましょうか?」

フランソワーズはアンナを促す。

「杏仁豆腐大好きなんです」
アンナは笑顔になる。
笑顔が栗原博士にそっくりだったが、お母さんにそっくりね。という言葉を飲み込んだ。



宴も終わり、片付けを済ませ、フランソワーズはひとりテラスで星を見る。

アンナの今日の様子を思い出していた。
栗原博士は本当の母親なのにヨソヨソしく、でも此処を頼ってきたきっかけは栗原博士なのだから、絶縁状態というわけでもなさそうだ。
ギルモア博士やコズミ博士とは面識があるようで、人見知りせず話をしていた。

ただのおとなしいだけの女の子ではない。
何か…がある。


「まだ寝ないの?」
フランソワーズの姿を見つけてジョーがテラスに来た。

「…ちょっと考え事」
近づいてきたジョーを笑顔で迎える。




「アンナさんと仲良くなれたみたいだね」


「あなたは珍しく手こずっているみたいね」

「それ、どういう意味さ」
ジョーが膨れる。


「栗原博士は何故来なかったのかしら?」

「送った時に誘ったんだけど、博士の存在がアンナさんの気分を悪くするって…」

「母娘なのに?」

「此処に預けたのも、勉強の為だけじゃないみたいだ」

「え?」

「僕らなら、アンナさんの気持ちをわかってあげられるって…」


「私達?」
フランソワーズの問いにジョーも首を傾げた。

「理由を聞いたら『いつかわかる』とだけ」

「いつかって…」

フランソワーズはジョーを見上げるが、ジョーは黙ったままだった。

 

7

アンナは眠れず、ゲストルームからリビングに入る。

フランソワーズともう少し話をしたかったのかもしれない。

自分から誰かと話をしたいなどと思った事は久しぶりだった。

いつも回りは興味を示し寄ってくるが、それは純粋なものではなく「珍しい」興味だったのかもしれない。
アンナが心を開かなければ、誰もが関心を無くして去っていく。

大学の研究グループの仲間とも、研究の話以外はしたことがない。
大学以外でその仲間達とごはんを食べた事もなかった。

友達は欲しかったが、自分の正体を知られたらという恐怖の方が大きかった。
だから誰とも近い距離で付き合えなかったのかもしれない。


リビングに入ると、大きな窓の先のテラスにフランソワーズがいた。
でも隣にはジョーがいる。

しばらく2人に見つからないようにその光景を眺めていた。
何かを話しているようだが、ジョーは背中を向けているから表情はわからないが、フランソワーズは正面を向いている…というか、ジョーを見上げる形になっている。
見上げたフランソワーズはとても美しかった。

ジョーの頭がフランソワーズの顔を隠す。

再びフランソワーズの顔が見えた時、こっちを見ていると気づく。

隠れようと思ったがすでに遅い。
盗み見するつもりはなかった。

フランソワーズがリビングに入ってくる。
「どうしたの?眠れないの?」
フランソワーズからしばらく遅れてジョーが入ってきた。
「早く寝たら?おやすみ」

そっけなく言うとジョーはリビングを後にする。

「ホットミルクでも入れましょうか?」
フランソワーズはキッチンに入る。
アンナはソファーに腰掛ける。

「フランソワーズさん…」

「なあに?」

「私でも恋をしていいのでしょうか」

「…え?」

突然の言葉にリビングのアンナの元に走り寄るフランソワーズ

アンナの顔は真剣だった。

8

ジョーは地下の研究室にいた。

アンナの父親について気になったので、データベースを調べていた。

両親との確執
年齢に似合わない外見
産婦人科医を目指しているのに、何故生体工学の知識を必要とするのか

博士にそれとなく聞いてみたが、はぐらかされてしまった。
何もない、という感じではない。

栗原博士の「いずれわかる」という言葉の意味もはっきりしない。

「ここにいたのね、コーヒー持ってきたけど」
フランソワーズが入ってきた。

「アンナさんは?」

「寝たわ」

「そう」

「…何かわかった?」

「アンナさんの父親が末期症状の患者の身体に機械を入れて生存させた…というデータは出てきたんだけどね。こういう話はよくあることで…」

「あ…あのね」
フランソワーズが言いにくそうに言葉を選んでいる。

「どうした?」

「アンナさんがどうしてご両親と疎遠なのかなんとなくわかったの」

「何か話してくれた?」

「視たの」

「視た?」

「栗原博士にちゃんとお話してもらわなければならない事なの」

「…わかった、一緒に博士の所に行こう」

フランソワーズは椅子に腰掛けると、大きくため息をつき、机に肘を乗せ、顔を手で覆った。

「…それってさ、多分僕が今考えている事と同じだよね?」

ジョーがフランソワーズに近づく。

「どうして…こんな…」
フランソワーズは顔を覆ったまま、動かずにいた。

「何か事情があるんだよ、真相は栗原博士にちゃんと説明してもらおう」
ジョーがフランソワーズの肩に手を置く

フランソワーズは顔を覆ったままこくりを頷いた。

9

「博士!どういう事なんですか!」

栗原博士は突然駆け込んできたフランソワーズに驚く事もなく

「さすがね」
と感心する。

「説明してくれませんか?」
興奮気味のフランソワーズを落ち着かせるように、後から来たジョーが問う。

「ここでは何ですから中に…」
栗原家のお手伝いさんに促され中に入る。

いつもは診療室か研究室にしか入った事がなく、栗原家の居間に通されたのは初めてだった。

リビングには大きな暖炉があり、そこには沢山のフォトフレームが飾ってあった。

真ん中には両親とアンナの姿。

ジョーがその写真を眺めていると、栗原博士が「その写真はアンナが中学生の頃よ」と告げた。

外見は今と変わっていない。
中学生で成長が止まっている。
写真の中の笑顔は両親を信頼しきっている表情そのもので、偽りなどなく思えた。

「その写真を撮影した少し後にアンナは病気にかかってしまったの…」

フランソワーズはソファーに座る事もせず、博士に背を向け窓の外を眺めていた。
そうしていないと博士を問い詰めてしまいそうだった。

ジョーもそんなフランソワーズの様子を気にかけながらも、博士と向かい合わせでじっと次の言葉を待った。

「もう治らないと…このままでは死んでしまうと…」

「…それでアンナさんの身体に…機械を?」
フランソワーズが静かに聞く。

「死なせたくなかった。夫は自分の持つあらゆる技術をアンナに使った。手術は成功し、生きる事が出来た…でも」

「でも?」

ジョーが繰り返す。

「身体は中学生の頃のままで成長しない。その現実に気づいたアンナは私たちを問い詰めた。もう解る年になったからと夫は全てをアンナに話したわ…アンナはそこまでして…生きたくなかった…と」

フランソワーズが栗原博士の方を向く。

「もし、自分の正体がバレたらとその恐怖の方が大きくなって、自分の殻に閉じこもるようになったの…」

フランソワーズがぎゅっと拳を握る。

「同年代の…同じ悩みをもつ貴方達となら、アンナもきっと心を開いてくれると思ったから…ギルモア博士にお願いしたの」

「アンナさんはお父さんには?」
「話を聞いた以来会っていないわ、夫は今アメリカにいるけれど、向こうでも訪ねては来ないらしいわ」

ジョーは栗原博士と話をしながら、フランソワーズの様子を気にしていた。

フランソワーズは話を聞き終わると
「ジョー、帰りましょう」と言い、栗原博士に頭を下げると、外に出てしまった。

「フランソワーズは気持ちの整理が出来ていないんですよ、帰ってアンナさんに話を聞いてみます。」
ジョーは栗原博士にそう言うと、フランソワーズの後を追う。

2人が乗った車が遠ざかるのを栗原博士はぼんやりと眺めていた。

「生きてさえいれば…」
博士はひとり呟いた。



 

10

アンナがリビングに入る。

朝からこの家は静まり返っていた。
フランソワーズは賑やかだと言っていたけれど、これでは自分の日々の生活と変わりない。

…やっぱり私はいつもひとりぼっち…。

キッチンのテーブルの上にはラップがかかったサンドイッチが置いてあった。
その上にはフランソワーズが書いたと思われるメモ

ちょっと出かけてきます。
サンドイッチ食べてね。

冷蔵庫からミルクを出すと、コップに並々とつぎ、サンドイッチを頬張った。

いつも無言でごはんを食べる。
一人暮らしの長い人は独り言をよく言うというけれど、アンナの日常は言葉のない時間の方が多い。

誰もいない家の中で独り言を言ったところで、エネルギーが消耗するだけだと考えていた。
休日は誰とも話す事なく、アパートで一人過ごす事もある。

研究室の学生は放課後や休日の予定をきっちり埋めなければ気が済まないかのように、沢山の約束をしている。

アメリカなら、自分の容姿が目立たなくていいかと思ったが、ストレートな物言いいが苦手で、最初は沢山いた友達もひとりふたり離れていき、今は休日の予定も特にない。

どこにいても私の生活は変わる事はないのかもしれない。


ふと昨日の夜を思い出す。
窓から見えるテラスにいたあの2人を。

フランソワーズがジョーに向けていた表情にどきりとした自分がいた。

恋…。

眠る前にフランソワーズと少し話をした。
彼女は自分の話にきちんと耳を傾けてくれた。
彼女なら…

また話を聞いてもらいたかったのに、留守で少しがっかりする。

その時
電話が鳴る。

どうしよう、誰もいないから出なくてもいいよね…

なかなか電話は鳴り止まない。

あまりに諦めの悪い相手に、もしかしたらフランソワーズが自分に用があってかけてきているのかと受話器を取る。

「もしもし…」

「あ〜!やっと出たのかよ!何やってんだよ!」
いきなり聞いた事がない声に驚いていると

「おい!何黙ってんだよ!」
と大音量が返ってくる。

「あ…あの、この家はみんな出かけていて…私は…留守番で…」
誰だかわからない上に、怒鳴られてすっかり萎縮したアンナが自信なさそうに話す。

「あぁん?お前フランソワーズじゃねーのかよ?誰なんだ?」

「しばらくここでお世話になる者で…」

「ふーん、誰もいねぇんだな、じゃいいわ、ジョーんとこ直接連絡するから」
ガチャ

「…」

一体何なの?
アンナは受話器を握ったまま唖然としていた。

 

11

帰宅したフランソワーズは真っ先にアンナを探す。

先ほど得体の知れない電話を取り、まだ動揺しているアンナをフランソワーズが見つけると、思いっきり抱きしめる。

「ふ!フランソワーズさん?!」
何が起こったのか理解出来ず、あたふたするアンナの耳元でフランソワーズが優しく言う。

「今まで辛かったわよね…もう1人で悩まなくていいのよ…本当に…辛かったわよね…」

「…え?何がですか…」

「あなたのお母さんから全て聞いてきたわ」

「母から?」

その言葉に疑いのトーンを読み取ったフランソワーズは抱きしめていたアンナの身体を離す。

「私が、あなたの身体を視てしまったから…それで栗原博士に話を聞きに行ったの」

「視た?」

「博士から何も聞いていないのね…私もあなたと同じなの」

アンナはフランソワーズをじっと見ていた。

「うそ…」

「え?」

「同じじゃないわ、あなたは…心は人間よ…私は心まで機械になってしまったのよ」

「アンナさん…」

「あなた達の事は母やギルモア博士から聞いていたわ。でも私とは違う。こんな身体にされるくらいなら…生きていたって仕方ないのに…」

「アンナさん…」


同情ではない、自分だって辛い事もある。
でも、仲間がいるから、同じ痛みを分かち合える事が出来たから今の自分がいる。
アンナにもそれをわかって欲しかった。


栗原博士もそれを期待してここに連れてきたのだろうから…。


「父や母は私を自分の研究の成果としか思っていないのよ!だから許せないの!
こんな身体にされてまだ生きなければならないなんてそんなの地獄よ!」

「アンナさん、それは違うわ」

「何が違うのよ!科学者なんてそんなものよ!」

フランソワーズの脳裏に一瞬イワンの父、ガモ博士の姿が浮かんだ。

そうかもしれない…でも…栗原博士はそんな人じゃない!

「栗原博士は私の命を助けてくれたわ、今私がここにいる事が出来るのは栗原博士のおかげよ」

アンナはそれきり黙り込む。

フランソワーズもこれ以上何を言っても今のアンナには聞いてもらえないとわかると、紅茶を入れにキッチンに向かった。

しばらくの沈黙を破ったのは…


「フランソワーズ!!帰ってきたぜ!」

という大音量とドタバタと大きな足音か響く。


リビングの扉をガッと開け、ズカズカ入ってきた男の口調に、アンナは先程の電話を思い出す。

「おぅ、お前か!栗原博士の娘ってーのは!博士に似ないで地味だな!」

「ちょっとジェット!何よいきなり!」

「あ、わりぃ、わりぃ、つい、俺はジェット、しばらくここで厄介になるからよろしくな」

大きな手をアンナに差し出す。

アンナは一瞬躊躇ったが黙って握手する。

男は軽く握手した手をすぐ離すと、パッとその場を離れる。

「おぃ!ジョー!けん玉教えてくれる約束だろ?」

「何だよ、帰ってきていきなり!」

車を片付けてきたのだろう。遅れてジョーがリビングに入ってきた。

「その前にスーツケース部屋に持って行ってよ!」
フランソワーズはまるでお母さんのようにジェットに言う。

「はいはいわかりましたよ」

「「はいは一回!」」

そしてガラガラとスーツケースを引きずり、フランソワーズに怒られている。

アンナはそんな3人のやりとりを見ていた。


ジェット…
大学の学生と同じ。
思った事をすぐ口に出す。
まだ心に閉まって距離を置く日本人の方が傷つかない…。

彼の登場に、行きたくはないが母親の所に帰ろうかと思い始めたアンナだった。


 

12

この家は誰かが来る度に料理上手な中国人が本場の中華料理の腕をふるう。
毎日誰かが来ていたらきっと毎日中華料理なのだろう。

ジェットは久しぶりの「まともな」食事に気分を良くしていた。
「まとも」が本場の中華料理なのかはどうかは別として、NYで一人暮らしをしている時はきっとろくなものを食べていないのだろうと中国人が言っていた。

確かに…
アンナは思う。
自分もアメリカでひとり暮らし
時々は外食もする。
ファストフードショップのハンバーガーは日本のものより数倍大きく、身体に悪そうなものだった。
こんな「身体」にされてからは数日食べなくても大丈夫らしいのだが、日々の習慣でお腹がすく。
そしてそれを放棄してしまったら本当に人間で無くなるような気がしていた。

だから同じ「境遇」の彼らが「食」を大切にしている気持ちもよくわかった。

でも…そろそろ日本料理が恋しくなった。
明日母の所に帰ろう。
これ以上傷つけられたくない…
あのアメリカ人に

でも、その前にフランソワーズに謝っておきたかった。
彼女は自分の事を考えてくれていたのに、両親の話でついカッとなってしまった。
夜遅いリビングに電気がついている。
きっとフランソワーズが起きているのだと思った。

一人だといいなと思う。
ジョーがいると…話つらい。
でもきっと彼の事だ、席を外してくれるだろう。

そっとリビングを覗いたら、そこにいたのは…


「どうした?寝れねぇのか?」

今一番避けたかった人がソファーにどかっと座ってけん玉をしている。

「どうしたんですか?夜中ですよ?」
思わず話しかけてしまった。

「時差で寝れねーんだよ、お前こそどうしたんだよ」

「もう寝ますから」

「誰かを探しに来たんじゃないのか?」

「いいえ」

「まぁ、せっかく来たんだから座れよ」

また何か言われて傷つくだけだ。
そう思いながらもここから出る言い訳が思いつかず、仕方なく対面のソファーに座る。

向かい側のジェットはけん玉に夢中だった。

「しっかし、難しいよなけん玉は」

返す言葉も思いつかず黙ってけん玉を見つめる。

なかなか中心に入らないけん玉にイライラしながらも諦めることなく何度も繰り返している。

「なんで日本に帰ってきたのに母親の元に行かねぇの?」
目線はけん玉を見ながらジェットはアンナに話しかける。

「…許せないから」

一瞬ジェットがこっちを向いた
でもすぐけん玉に視線を戻す。

「ふーん」
ジェットは興味なさそうに言葉を返す。

2人沈黙のまま、けん玉の音だけがリビングに響く。

「事情はここに来る前にジョーから聞いた。お前に余計な事は言うなとな」

「でもよぉ、お前、親父さんに手術してもらわなければ死んでいたんだろ?」

アンナは黙ったままだった。
ジェットはその様子を気にする事なく、けん玉をやりつづけている。

「考え方を変えてだな…再び親父さんから命をもらった…そう考えられねーのかなって」

アンナが顔を上げる。

「この身体にされた事実はもう変わる事はないし、親を恨んでいても先に進めねーんじゃないのか?」

「ジェットさんは…この身体を不便だと感じた事はないんですか?」

「俺すげーんだ、空飛べるんだぜ」
質問の答えがあまりに幼稚で、アンナはぽかーんとしていた。

その瞬間

「あ!入った!」
声を上げたのはジェットでなくアンナだった。

けん玉が見事に入った。

「やったぜ!」
ジェットはちらりとアンナを見た。

「やっと笑ったな」

「え?」

「俺はミッションコンプリートしたからもう寝るぜ」

けん玉をドカッとリビングのテーブルに置き、リビングを後にする。

ドアを開けた瞬間アンナが
「おやすみなさい」と声をかけた。

「おぉ、お前も早く寝ろよ!」
振り返ったジェットの笑顔に、アンナの心の中が暖かくなった。

13

どんなに遅い時間に眠ったとしても、目覚ましなしで目を覚ます。

午前中はギルモア博士の研究室で生体工学の授業。
隣にはジョーがいる。

ジョーはアンナにあれこれ話しかける事はしなかったが、要所要所で「解る?」と言い、自信のない顔をすると分かりやすく補足してくれた。

学んでいる分野は違うが、自分の身体を知る上でこの分野も学んでおこうと決心した。
その気持ちが痛いほどわかるジョーは、ここにいる間何かを得てもらいたいと思っていた。

アンナはふと昨日のジェットの言葉を思い出す。

「生まれ変わったと思って…」

確かに父親に手術をしてもらわなければ死んでいた命。
こんな身体にされてまで生きなくてもいいと思っていたが「彼ら」はこんな身体にされても尚自分の生きる道を模索している。

「島村さんは…」

アンナから話しかけてきたので、ジョーは驚いた顔をした。

「この身体になってから『生まれ変わった』って思った事はありますか?」

唐突な質問に言葉が出ずアンナを見ていたジョーだったが、ふっと笑うと

「僕はこの身体にされる前はロクな事なかったからね、周りの環境が大きく変わってそんな事思う余裕はなかったな」

「すみません…変な事聞いて」

「ただ…」

「え?」

「仲間の存在はありがたかった。今の自分があるのは仲間達のおかげだから」
そう言うとジョーはにこっと笑う。

アンナが言葉を探していると

「博士が進めたいみたいだから」
ジョーが博士にアイコンタクトをする。

仲間の存在…
アンナは頭の中で繰り返す。

 

14

博士の授業を終え、リビングに戻ってみると、そこにはジェットの姿があった。

「朝早くからご苦労だな」

「何言ってんのさ、もうお昼過ぎだろ?」
ジョーが呆れ顔をしてキッチンに消える。

「お前、これから用事あるのか?」
ジェットがアンナに聞いてきた。

「別にこれといってないですが…」

「じゃあ出かけるか」

「え…まさか…飛ぶ…とか?」

「そうしたい所だが人に見られるとかでジョーに怒られるんだよ」

「何か言った?」
キッチンからジョーの声がする

「何でもねぇよ、これからこいつ借りていいか?」

「は?」
驚いてリビングに戻ってきたジョーにジェットは笑う。

「なぁにちょいと近所に出かけてくるだけだ、毎日家から出ないんじゃあ体に悪いだろ?」

「…大丈夫?」
ジョーはアンナに問う。

「はい、せっかくなので」

アンナの返事にジョーは唖然としていた。





アンナは必死でジェットの背中にしがみつく
ドライブだと思っていたらバイクだった。
ジェットの体に手を回していないと振り落とされそうだった。

ヘルメットの中では目を閉じていなければ怖くて仕方ない。
まるで子供の頃父親に楽しいからと騙されて乗せられたジェットコースターに乗っているようだった。

あの時の父親を思い出す。
今のジェットのようにワクワクした顔をしていた。

季節は夏から秋に動き始めていた。
海水浴客もなく、サーファーが海を占拠していた。

ジェットはバイクを止める。
「降りれるか?」
ヘルメットを外したジェットが振り返る。

アンナはヘルメットを外し、はぁぁと息を吐く。

「1人で降りれます!」



「日本に来たらまずバイクに乗って海岸を走る」
歩き始めるジェットの後にアンナは続く。

「モヤモヤな気持ちがスッとする」
そう言うと振り返りアンナを見る。

「どうだ、すっきりしただろう?」

強引な人だと思う。
でもここまで強引でなければこんな体験自分からしたいと思わない。

「ええ、すっきりしたわ」
本当は怖くてそんな事考えられなかったが、強がって言ってみた。

ジェットは声を出して笑う。
何がそんなにおかしいんだろうとアンナは不機嫌さを顔に出す。

「強がってら」

「とても楽しいです!」

「怖がっていたくせに」

図星だが認めたくない。
ツンとしてジェットを追い越す。


「アメリカにいる親父さんに会っていないんだよな?メンテナンスとかどうしているんだ?」

「ギルモア博士が時々来てくれていました。」

「博士が?俺には日本に来いとか行っておいてよぉ、お前だけ特別扱いかよ!」

「それは違うと思いますよ、ジェットさんの場合は日本に家があるから…博士はきっと皆さんが揃うのを楽しみにされているんですよ」

「ちぇっ!」

アンナは拗ねたジェットに少し笑うと、堤防に腰掛ける。
ジェットも隣に腰掛けた。

「お前、メガネなんていらねーだろ?それ取った方が年相応に見えると思うけど?」

ジェットの何気ない一言がアンナの顔を曇らせる。

「これだけは外したくない。自分を隠す為のものだから。このメガネがないと…私じゃなくなるの…」

自分たちと同じ年頃には見えない三つ編みのメガネをかけた少女のままのようなアンナを、ジェットは無言で見ていた。



 

15

「ただいまぁ」

フランソワーズがリビングに入ると、ジョーが1人ソファーに寝そべって雑誌を読んでいた。

「あら?1人?アンナさんは?」

「ジェットと出かけたよ」

「ええっ?大丈夫なの?」

「本人が行きたいと言うんだから大丈夫なんじゃない?」

のんびりと言うジョーはソファーで伸びをしている。

フランソワーズは窓の外を見る。
「ジェット、気に障る事言わなければいいんだけど…」



しばらくして2人が帰ってきた。

「ただいま帰りました」

「アンナさん、大丈夫?ジェットに何か気に障る事言われなかった?」
心配しているフランソワーズにアンナはにっこり笑い。

「大丈夫ですよ、フランソワーズさん、昨日はすみませんでした。」

「え?」

後ろにいたジョーがほらねと言わんばかりの顔をしていた。

アンナの後にジェットが帰ってきた。

ジョーを見つけると
「あいつ結構気が強いぜ」と笑う。

フランソワーズはジョーの元に行くと
「アンナさんが笑っていたわ」と呟いた。




この家のゲストルームにはシャワールームがついていた。
まるでホテルのようだと思う。

フランソワーズの話では時々「訳あり」のゲストが泊まったりするからだと言う。
男性が多い家ということもあるらしい。

シャワーを浴びて髪を乾かす。
パウダールームの鏡の中の自分を見る。

まだ少女のままの自分。

メガネを外した自分の顔。
鏡は嫌いだったからあまり自分の顔を見る事はなかった。


「それ取った方が年相応に見える」
ジェットの言葉を思い出す。

思わず目を閉じる。

鏡に背を向けパウダールームを後にした。

16

それから数日が過ぎ、アンナは明日アメリカに帰る。




「明日帰るんだって?」
砂浜を歩いていたジェットが立ち止まる。
「今晩は実家に泊まって明日のフライトで帰ります。ジェットさんはまだいるんですか?」

「もう少しな、そうだ、お前はどこに住んでいるんだ?」

「カリフォルニアです」

「ちょっと遠いか…今度ニューヨークに遊びに来いよ!」

「ありがとうございます。父がニューヨークにいるので、会いに行こうと思っていました。」

「そうか」ジェットが安堵の顔をした。

「許すとかは別として、話を聞きに行こうかと…その時ニューヨークを案内してくれますか?」

「おぉ!任せとけ!」

「ありがとうございます」





「あれっ?アンナさんは?」

キッチンに1人立っているフランソワーズにジョーが問う。

最近はフランソワーズの手伝いもするようになり、朝は2人キッチンに並んでいるのだが…。

「あっちよ」
フランソワーズが指差した先はテラスの向こうの砂浜。

ジョーはフランソワーズの指差した方向を見るとクスッと笑う。

「1番合わなそうな奴が彼女の心を開いたとしたら?」

「彼女に必要だったのは慰めてくれる人や同情してくれる人じゃなく、強引であっても今の自分を変えてくれる人だったのかもしれないわね」

フランソワーズも砂浜を見る。




アンナは本音を言えばここを離れるのが寂しかった。
ようやく自分を認めてくれる、同じ痛みを持った人達と出会えた。

そしてこの隣にいるアメリカ人の真っ直ぐな思いに今までの自分から少し前向きに考えられる様になっていた。

「お前さぁ」
アンナはジェットの方を向く
ジェットは突然アンナの髪に手を出す。

「何?」
動揺するアンナを気にせず、三つ編みしているゴムを解く。
長い髪がふわりとなびく。

「この方がずっといいオンナだぜ」

アンナはジェットの言葉に固まった。

ジェットはアンナのメガネを外す

「何故隠すんだ?自分自身を」

そう言うと…



「あ!!」

その光景に気づいたフランソワーズ、さすがにいけないと思いテラスに向かって走り出す。

「おっと」
フランソワーズをジョーが止める。

「どうして止めるのよ!」

「大丈夫だって、ここで行ったら野暮だよ」

ジョーは止めついでにフランソワーズを抱きしめた

「こうすれば気にならないって」
ジョーはフランソワーズにキスをする。

「な!」
唇を離し抗議しようとするフランソワーズにジョーは
「アンナさんの今の気持ち…わかった?」
と笑う。

フランソワーズは最初の夜のアンナの言葉を思い出す。


「私でも恋をしていいのでしょうか」


「…でも、相手がジェットは危険すぎるわよ!」

「アンナさんの変化にキミも気づいているはずだけど?」


フランソワーズは返す言葉を無くし、砂浜の2人の姿を眺めるしかなかった。



 

17

空港で栗原博士はジョーに言う。

「あなた達のおかげでアンナも明るくなったわ、ありがとう。昨日の夜は久しぶりに沢山話をしたわ」

離れて暮らす娘とのわだかまりに博士もやりきれない思いを抱えていたのだろう。
「助けてくれてありがとう」と言われたと涙ながらに告白してくれた。

「僕達は何も…彼女の心境の変化には…」

「博士、これからは違う心配をしなければならなないかもしれませんよ」
ジョーは栗原博士に耳打ちをした。

「え?」
栗原博士は聞き返すが、ジョーは返事をしなかった。


「元気でね、いつでも遊びにきてね」
フランソワーズが笑顔で握手する。

「色々ありがとうございました!」
アンナも笑顔を返す。

「元気で!」
ジョーも続く

「わからない事があったらまた教えてください」
アンナと握手をしながらジョーも「もちろん」と返す。

「親父さんに会いに行く時連絡くれよ、予定空けとくからな」
ジェットの前でアンナが俯く。

「あ…あの、それ以外でも…連絡していいですか?」

「おぉ!いいぜ!いつでも話し相手になってやりゃあ!」

アンナはにこっと笑い。

「アメリカっていい印象がなかったんです。でもジェットさんに出会えて見る目が変ってきました。1人でもやって行けそうです」

「辛かったらいつでも連絡くれ、飛んでいけるかどうかわかんねーけどな!」

「ありがとうございます!」





「ねぇ、ジョー、気づいた?」

「なにが?」

アンナを見送り帰宅した。

ジェットはいつも通りバイクを走らせに行った。

テラスにはジョーとフランソワーズ。

「アンナさん、髪を下ろしてメガネを外していたわ。」

「そうだったっけ?」

「もう、鈍感ね!あれもジェット効果なのかしら?」

「ジェット効果かぁ…かもしれないね」

「女性は恋をすると綺麗になる…本当なのね」

「キミはいつもキレイだ」

「な!そんな事言ってないでしょ?」

「だって僕にいつも恋してる」

フランソワーズが真っ赤になる。

「赤くなるなよ、僕だって言った自分に恥ずかしくなっているところなんだから」

何故か真っ赤になっている2人。




真っ青な空の向こう、もうこの国も見えなくなっている旅客機の中、来た時より成長したアンナが窓の外を眺めていた。

「また…会えるよね?」



〜おしまい〜

 

2016.9.5〜10.29

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