
心の桜
ジョーは車を止めると、車から降りる。
スライド式のワンボックスの後部座席から車椅子を出すと、車椅子を押しながら助手席に回る。
助手席のドアを開け、乗っていたフランソワーズの手を引き、車から降ろし、車椅子に乗せる。
「こんないい時期を狙ったかのような不都合だ」
ジョーは残念そうに言う。
「そうね、楽しみにしていたのに台無しね」
フランソワーズはそれほどでもない。
「桜が咲いている期間に目が見えないなんてね」
突然の目の不都合でフランソワーズの視力は失われていた。
桜の時期が終わる頃手術できるのだという。
目が見えないのにお花見してもと言うジョーに、フランソワーズは行きたいとワガママを言った。
2人が見つけた穴場の桜。
それほどの花見客もいなくて、車椅子も余裕で通る事が出来た。
「春の香りがするわ、目が見えていると気づかないのにね」
車椅子が急に止まり、後ろから聞こえていたジョーの声が前方に回る。
「そのまま前に倒れて」
「え?」
「いいから」
目が見えないからジョーが何をしているのかわからず不安になり、腕だけを前に出してみる。
何かに当たる。
背中?
位置を確かめそっと前に倒れてみる
ジョーの背中がちゃんと受け止める。
周りに人もいるのに恥ずかしい。
「ちょっと、子供じゃないのよ!」
「車椅子じゃ地面の匂いしかしないだろ?」
ジョーの背中は暖かく、安心できた。
「このまま目が見えなくてもいいかもしれないわ」
ジョーの背中にぽつりとこぼす。
「な!」
何を言っているんだと非難しそうな彼に
「だってあなたとても優しいんですもの」
と笑う。
「何を!普段から優しいじゃないか!」
「どうかしら?」
「…反省します」
フランソワーズはジョーの背中の暖かさに目を閉じる。
視界には桜は見えないけれど、心の中の桜は満開だった。
2016.4.10