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星が流れる夜に

1


ジョーはモナコグランプリを終え、レース後のイベントをこなすと、パリに向かった。

モナコの次のレースまでは時間があり、少し休暇が取れる。
フランソワーズのバレエ公演の千秋楽に何とか間に合った。
その日はフランソワーズも忙しいからと、翌日会う事になった。


あの命をかけた戦いの後、一緒にヨーロッパ入りしたが、彼女はパリ、自分はモナコと慌ただしく、話らしい話もしていなかった事に今更気付いていた。

フランソワーズもパリの公演が終わると少し休暇が取れると言っていたので、せっかくだからと5つ星のスイートルームを押さえておいた。


バレエを踊るフランソワーズはとても美しかった。
あれが彼女のあるべき姿だと改めて感じていた。
今度またあの様な事があったら…彼女に知らせず行くだろう。

ジョーはフランソワーズのバレエの熱気と興奮を冷ますかの様に、夜のパリをあてもなく歩いた。


ふと見上げた夜空には満天の星。


あそこで…。


短い時間だったのかもしれない。
しかし、ジョーには何年もの時間が流れたように思えた。

今、自分がここに立っている事が奇跡なのだと思えてきた。

もう一度、空を見上げる。
あの空の向こうにあった星。
再建半ばに壊滅してしまった星。
…その星の女王…。

何故自分は、ボルテックスの中で彼女の復活を祈らなかったのか…。


何故…。



ジョーは振り返り歩き出す。


ジョーの背後で流れ星が一筋流れた。

2


夢のような時間だった。

久しぶりに2人で食事をして、ホテルのスイートルームで愛を確かめあった。

今、目の前にあるのは無防備な彼の寝顔。

満たされた時間なのに、心の隅にくすぶったままの思いが消えない。

明日になればまたお互いの場所に戻る。

「休暇が取れたらまた逢おうよ」
彼が笑顔で言っていた。
その言葉に嘘はないのだろうけれど…。

まだ夜明け前。
少しだけ開いたカーテンの隙間からは、パリの街が見えた。
まだ街も眠っていた。

その時、声が聞こえた。

「ジョー」

2人しかいないはずの部屋に誰かの声。

「ジョー」
…また…、声じゃない、頭の中で響いている。

フランソワーズは不安になり、ジョーを起こす。

ジョーは目を覚ましたが、まだ寝ぼけているようだ。
「何…どうしたの⁈」

「誰かが…あなたを呼んでいるの…」

「え⁈」
ジョーが上半身を起こす。
「…ホントだ」
気付いたようだ。

「ジョー」
2人の目の前に立体映像の様に、1人の女性が現れた。

「…タマラ…キミは…」
フランソワーズは咄嗟にジョーの腕に腕を絡めた。
そうしないと連れて行かれそうな気がした。

「ジョー、あなたが願ってくれたのではないですか」

やっぱり…ジョーはボルテックスの中でタマラの復活も祈っていた。
フランソワーズの心の隅にあるくすぶったままの思いが段々大きくなってきた。

「何故…ここに?」

「私はあなたのおかげで蘇る事が出来ました。しかし、私1人の力では…とても星を再建する事は…」

「しかし…」

「地球の危機は去りました。あなたの使命も…今度は私が…あなたを必要としているのです…お願いです、私の星の再建に力を貸してください」

フランソワーズはジョーの腕をさらにギュッと掴んだ。

ジョーはそんなフランソワーズの手をそっと解く。

「ジョー⁈」

「ごめん、行かなきゃ」

ジョーの言葉を疑った。
「何を言っているの?あなたはこの地球でまだやらなければならない事が沢山あるのよ!」

「でも…行かなきゃ」

ジョーはベッドから立ち上がる。

「ごめん、フランソワーズ」

「待って!ジョー!行かないで!」
フランソワーズの叫び声だけが…。





「どうしたの?」
ジョーの声が聞こえる。

「え⁈」
目を開けると、心配そうに覗き込むジョーの姿。

「…戻って…来てくれたの?」
恐る恐る問いかける。

「何言ってるの?僕はずっとここで寝ていたけど?キミすごく魘されていたからさ」

夢⁈

「悪い夢でも見たの?」

フランソワーズは隣で上体を起こしていたジョーの胸の中に飛び込んだ。
「そんなに怖い夢だったの?」
ノンビリとでもとても優しいジョーの声。

夢の中の「ごめん、フランソワーズ」が頭から離れない。

「どこにも行かないで…ずっと側にいて…」

ジョーはふっと笑うとフランソワーズを優しく抱き締める。
「たとえ離れていても、心はキミと一緒だよ」


夜明け前
抱き合う2人を見つめるように
星がひとつ流れた。


〜END〜

2015.7.4~5

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